はっはっと乱れた息遣いが夜の静寂に響く。
簡素な部屋の中、ベットの上で二人の男女が睦み合う。半分以上脱ぎ落ちた衣類は意味を成さず。
ちゅうとオベロンは立香の舌を吸い上げた。擦り合わせていた唇を離し、口の端に溜まった水を舐めとる。寄せていた体を少し離して見れば、立香の全身がほの暗いライトの中で照らされる。ブラウスはボタンを外され、下着を身に纏わぬ乳房がそのまま曝されている。下は既に脱がされて床下の上。少ないながら細やかなレースが施された水色の下着だけがちらちらと太ももの隙間から見え隠れする。
舐めまわすような視線に気づいたのか、もぞりと体を捩って立香が乳房を隠す。
「隠すなよ」「えっち」
今更と酷薄にオベロンは笑う。逃げた肢体を追いかける。思わず立香は上体を後ろに下げて、さらに逃げる。
「こら、逃げるな。逃げられると……噛みつきたくなるだろ」
かあと立香の頬に朱が昇る。噛みつかれたいと心の声が聞こえたので、オベロンは望みのままに彼女の肩を食んでやった。
「……ん、あ、」
そのまま彼女をベットの上に倒し、腰元の下着をなぞる。すすすと縁に沿って、横から中央に。臍の上あたりで動きを止めて、カリッと指を肌と下着の間に差し挟む。ふうふうと彼女の腹が上下する。ゆっくり下着を持ち上げ、ぱちんと弾いた。
「あう!」
痛みかそれ以外か。立香がうめき声を上げる。恨めし気な視線がオベロンに突き刺さった。ごめんごめん、うっかり手が滑ったよと嘯く。視線がぎりぎりと強くなったので、ごめんねと彼女の米神にキスを一つ。これか、これなのね。オルタ!と立香は意味不明なことを心中で叫んだ。
「ん? ……まあ、いいか。ね、脱がせていい?」
今度こそ明確に下着をサイドから持ち上げて、オベロンは立香にお伺いを立てる。
「聞かないでよぅ」
ほとほとに困り果てた声に笑い返して、オベロンはするりと水色のソレを抜き去った。水色も良いけど、きみには黒とか白も似合うよとさり気無く自分の好みを押し付ける。こくりと今度ダヴィンチちゃんに相談すると頷く立香にあきれ果てた。
(きみね、……役得だからいいけど。そういうところだよ)
流されやすいこの恋人に、妖精王は一層心配が積みあがる。それは後日なんとかするとして、今は据え膳だ。取り合えずと、脚の付け根。乙女の花園に手を差し入れれば、立香の体がぶるりと震えた。
「ああ、…手が冷たいかな。ちょっとだけ我慢して」
「そ、そうだけど。そうじゃなくて」
もごもごと立香が言葉濁して、眉を下げる。口元に寄せられた手が震えている。言わんとするところは分かるが、オベロンは彼女の訴えを黙殺した。ゆっくりと怯えさせぬように膣を包む肉を撫でさする。はっはっ、と立香の息が上がり始める。大きな息が弾ける度に彼女の二つの乳房がふるふると揺れ動き、扇情的だ。オベロンの指の温度と周りの肉の温度が同じになったところで、するりと割れ目のなぞりあげた。
「あ! ああっ!」
「可愛い」
ぽとりとオベロンの口から零れ落ちたそれは立香の心をさざめかせる。これ以上心拍数があがると自分はどうなってしまうのか、まだまだ前戯の段階(?)のはず。立香はこの先を想像して身を固くした。その固さが伝わったのか、オベロンが彼女の太ももを撫でて力を緩めさせる。
「余計なことを考えるなよ。きみの場合、碌なことにならない」
今、幼気な娘に碌でもない真似をしているのは誰なのかと、糾弾したい。立香は忌々し気にオベロンを見たが、オベロンはにやりと笑って見せた。
「随分と余裕じゃないか」
ずるりと先ほどより強めに肉の割れ目をなぞってやれば、直ぐに屈服の悲鳴が娘の喉奥からせり上がる。
「やぁ! あ、だめ、やだぁ……!」
水音が響いてくる。ぴちゃぴちゃ、くちゅくちゅ。
かなり潤ってきたなと、試しにオベロンは指を割れ目の中央やや下の穴に差し入れた。少し硬いが入りそうだ。ちゅちゅと立てられた膝の上に口づけながら、奥に差し込む。
「うっ、あ、うーーー」
立香が歯を食いしばり始めたので、こらこらと顔を寄せる。
「力を入れたら返って痛いと思うよ」
「随分とお詳しいようで!」
何だか変な方向に思考が着地したらしい。別に他所で経験があるわけではないのだが。
ふうとオベロンは息を吐いて、
「だから考えるなって。きみが初めてだよ……この答えで満足かい?」
ふにゃと立香の眉間に寄せられていた皺が緩む。
そんな泣きそうな顔をされてもそそるだけなのだが、分かっているだろうかこの娘。
ちゅっと疎かになっていた唇に二度三度と慰めを贈る。指はゆっくりと中腹を過ぎて、最奥に向かう。取り合えず、一本無事に挿入できた。
「どう? 多分、まだ気持ち良くは無いと思うけど。痛みはある?」
「な、無いけど。なんか入っている感が凄い」
ぶはと色気なく、オベロンが噴出する。くつくつと笑えば、立香がむすりと頬を膨らませる。聞かれたことをありのままに答えただけですけど。と心中でも付け加えるので、笑いが膨らむ。目尻に涙をためながら、オベロンが立香の膨れた頬をはむりと噛んだ。
「ん。痛みが無いなら、…嫌じゃないなら、いいよ」
「君も対外だよ、……嫌じゃない。オベロン、貴方に触れられるのは嬉しい」
ほんのりと目元を赤らめて立香は自分の顔の横にあるオベロンに囁いた。ふっとオベロンが笑ったのが首筋の風で感じる。ぴたりと添えられた体はとても気持ちい。さらりとした肌と汗が滲み始めた肌がじんわりと温もりを分かち合う。首を唇でなぞられながら、膣内にある指がもぞりと動き出す。その手の親指がふくりと膨らんだ芽を押す。
「ああ、オ……ベロン」
堪らないのだと立香が鳴きながら訴える。耳元で喘ぐ音にオベロン自身の体温も上がっていく。ぐちゅぐちゅと中をひとしきりかき混ぜて、もう一本の指も差し入れた。二本の指がゆっくりと彼女の腹の中、上部をなぞっては降り、差し込む動作を繰り返す。――と突然反復が止まり、ぐるりと指が弧を描いた。
「あ!」
くるくるとなぞってはぐうと両指を戯れに押し開く。中を開こうとする動きだ。
「あっあぅ、はっ、ああ、んっんっんう。」
何のために――? 決まっている、より大きなものを加えさせる為だ。
あ、あ、と立香が鳴いている。
下準備をし始めてどれぐらいだろうか、10分か1時間か。もやは時間間隔が分からぬほど、感覚が悦に侵されている。ずるりと指が抜かれた。久しぶりに異物の無い状態に立香はほぅと息を吐く。
なんだかスース―する、と煙掛かった頭で考えていると、ぴたりと入り口に何かが宛がわれる。
(ん? …………!!!)
思い至った予想に、動揺が震えとなって体を駆け抜けた。
「……」
オベロンが無言なのがとても怖い。ひえと内心で立香が恐れ慄いていると、ばちりとオベロンと視線が合う。冴え冴えとした瞳の奥に情欲の炎が上がっている。ごくりと立香の喉が鳴った、と同時にぐううと押し開く圧が入り口にかかる。
「い、痛い!」
「ごめん、ちょっと堪えて」
無茶を言う! と立香はオベロンを蹴飛ばしたくなるが両脚はオベロンによって拘束されている。
だが、本当に痛いのだ。これまでも幾度となく痛い思いはしてきたが、これは未知の痛みだった。
耐えきれず、涙がぼろぼろと零れ落ち、悲鳴が口から飛び出る。
「や、や! いたいぃいい。」
こんな幼子のように痛みを訴えたことがあっただろうか。自分の声の情けなさに一層涙が出る。流石に憐れに思ったのかオベロンの動きが止まる。どうしたものかとその瞳が思案にくれたが、直ぐに顔を寄せてきた。立香は痛みを逃がすので精いっぱいで、恐れからぎゅうと瞼を閉じた。
数秒、次に来る刺激に備えて待った。が何も来ない。
(……???)
胸元にぴちゃと何かが落ちる。はっと目を開けば、オベロンが舌をその薄い唇から差し出して、下に向けている。その赤い舌先からは雫がひとつふたつ。立香の胸の頂に落ちる。倒錯的なその光景に、あっ、と立香が驚きの声をあげる。ぴちゃりと雫が落ちる度にひくりと腹が震える。てらてらと彼女の蕾が唾液で光る頃、オベロンがちらりと立香を見上げながらその舌先をゆっくりと下ろしていく。
その先は、立ち上がり真っ赤に染まった立香の蕾だ。あ、あ、と想定しうる刺激に彼女は身構える。
後少し、ほんの少しで舌が蕾に触れる。触れるか触れないか、その瞬間――ぐんと中に圧が掛かって、ぐぷりと入り口を竿が通り抜けた。は、と息が腹から押し出される。はくはくと息を喘いで、立香は全身に駆け巡る衝撃を一拍遅れて感じ取る。
「ああああああ」
ひどい、ひどいひどい。騙したなと快感にのたうち回る己とは別の思考で、恨みの声を上げる。
「ふふ、期待した?」
オベロンが、どちらかと言えば、本性を現す前の少年のような笑みで立香を見下ろしている。なんてひどいやつなんだと心中では思うが、口からこぼれ出るのは子音のみ。
「怒らないでよ。ほら、ちゃんと入っただろう?」
いい子いい子とオベロンが立香の腹を撫でる。びくりびくりとその度に彼女の腹が、中が、跳ね上がる。思わず、ぎゅうと中の彼を締めてしまい、オベロンが眉をひそめて、息を吐く。
「はあ、きもちいい。きみのナカ、温かくて、俺のに吸い付いてくる」
とんでもないことを言われているが、あまりの衝撃に立香は意識を遠くに飛ばしていて気づかない。
む……、と心在らずな立香に気分を害して、きゅっと彼女の蕾をつまみ上げた。
「あん!」
子犬のような声がまろび出て、立香は驚いた。え、と思ったその瞬間、ははっとオベロンがほの暗く笑う。羞恥が走る。流石に恥ずかしさで立香は自分口を両手で押さえ、止めてと指の隙間から訴える。
「ひ、ひぃ、つま、摘ままないでぇ」
おやとオベロンは眉をあげ、じゃあと、ぴんと頂きを弾いた。
「やああ!」
ぴんぴん――と何度も玩具のように頂きを弾く。
やだやだと立香は口を押えたまま、顔を横に振る。ぱさぱさと彼女の夕暮れの髪がシーツに踊る。
「つまんでもダメ、弾いてもダメ。我がままだなぁ」
と全然困った風には無く、その反対に、ニコニコと嬉し気にオベロンは立香を眺めた。ほら、と手を繋いであげるよとオベロンは両手を立香に差し出す。ひんひんと鳴きながら、立香は誘われるままに両手を繋いだ。人の手と異形の手。すんと鼻をすすったところで、にやぁりとオベロンがいやらしい笑みを浮かべたことに気づいた。
しまった、罠だ――。
とん、と下から軽く内臓を突き上げられる。
「あ、!」
とんとんとんと、その後も緩く振動が伝わってくる。その度に、立香の口から遮るものの無い声が上がる。
「子犬もいいけどね。可愛い俺のひばり。他の鳥が朝を告げるまで、今この夜に鳴いておくれ。上手に鳴けたら、ご褒美をあげるよ。そら!」
ぱちゅんと先ほどより強めに突き上げが来て、ああ!と立香の愛声が上がる。段々とその突き上げは激しさを増していき、彼女の全身を揺らす。
「あっあっ、ひあっ! お、オベロン! ああっ、だめ、だめえええ!」
「はっ、はっ、んっ、あ、」
ぴんと伸びた足先から段々と感覚が消えていく。中が熱くて苦しい。ひっきりなしに喉奥は喘いでいる。息が薄くなって、頭の奥がじいいんと耳元で音叉でも鳴らしているかのように白んでいく。下から上に持ち上げるような、ふわりと浮いていくような感覚が迫ってくる。
「あ、あ、あ、あああああああ」
ぎゅううと中が締まるのが分かる。オベロンも感じるのか、瞳を閉じて体を揺すってくる。
とんっと一番奥を叩かれた瞬間――
「――――――」
「は、」
立香は絶頂の波に攫われた。奥の方で温かい温度が広がっていく。
ああ、彼も――と思ったところで意識が途切れた。
ふと気配を感じて、瞼を開いた。目の前には白い肌。ぼうと鎖骨から首を辿って顎が見える。動く気配を感じたのか、顎が下がり、ブルーの瞳が現れる。
「ひばりは鳴かない。だから、まだ眠ってろ」
「うん。ねえ、うた、歌って」
「……言っておくけど、俺は音楽家じゃないんだ。歌なんて一つしか知らないよ」
「いいの。ねえ、お願い」
はあとため息をついて。オベロンは息を大きく吸い込む。
日ぐれの空で きらきら光る
お家(うち)へかえる 小鳥のために
遠(とお)くでひとり きらきら光る
「ね、その歌の歌詞。もしかして、わ――」
つと長い指が立香の少し腫れた唇に添えられる。夜の中にあっても煌めく瞳がじっと見ている。
「俺たちはどうにも言葉にすると厄介なことになるらしい。だから、きみが感じたことが全てだよ。そのまま奥に秘めておくといい」
こくんと立香は頷く。よし、とオベロンは満足げに笑った。
(分かったよ。それじゃあ、私が都合がいいように思っておくね。)と立香は目の前の男をぎゅうと抱きしめた。仕方ないなとオベロンは足をより深く絡ませる。どこもかしこもぴったりと。二人の体温は同じ。
温かな夜だ――。