もし、あの時、違う選択があったのなら。……数えるのも馬鹿らしいほどのイフが転がっている。……。藤丸立香が人類最後のマスターでなければ。人理は恙なく救済されただろうか? 後輩もドクターも。帰還した英雄を『おかえり』と笑顔で出迎えられたのだろうか。――もし、あの時、違う選択が、あったのだとしたら。
「じゃあ、コイツは完全にタダのお荷物ってワケだ!」
冷笑と侮蔑。刺さるような視線が立香に注がれる。
(……なに? どういうこと?)
状況が飲み込めない。いや、自分は大勢(と言っても精々十数名程度)を前にして、壁を背に立っているという状況は認識した。が、理解は出来ない。自分は確か地球白紙化の為、異聞帯を攻略していたはず。だが、これは一体全体どういうことだ? 自分の前に、倒したはずの彼らがいる!
「何が何だか分からない、って顔してるぜ」
ベリルガットが肩を竦めながら、カドックに話を振る。
「魔術師じゃないんだから仕方無いだろ」
『仕方無い』。それは立香を慮る言葉ではなかった。単調で、感情がなく。ただ紙に書いてある事実を読み上げただけ、そんな風に聞こえる。
(カドック!)
『なら、中間をと取ろう。A’』『慎重に行動しろ!』『僕はいつでも、いつだって、できるはずだった……っていう後悔ばかりだよ』
(……違う。彼は、違う!)
少しだけ笑うようになった。冗談も、言い合える仲になった。これではまるで、……異聞帯の彼のようではないか。
(夢を、見ている? それともこれは幻覚?)
必死にこの状況の取っ掛かりを探そうと周囲を見回し、――立香の心臓が凍り付いた。
「あ、ぁあ」
緑の瞳、オレンジの癖のある髪、白い手袋に包まれた両手。気遣わしげにこちらを見やる優しくて酷い人。
「ドク、ター」
それを助けを呼んだと思ったのか、彼はこほんと咳払いをして。
「あー、Aチーム諸君。今は、ただの自己紹介の場だったはずだ。彼女が一般人であることは事実だけれど、この状況下で人手があることは喜ぶべき事だと、僕は思うな」
ふっと周りの空気が弛緩するのが分かった、――けれど。ぎぃい。……無機質なタイルをイスが打ち、引っ掻くような音を立てる。耳慣れたサウンドなはずなのに酷く耳障りなのは、音の生成者の所為だろう。かつり、かつり。嫌みなほどゆっくりとした足音。奏でるは照明を反射してギラリと黒光りする上等な革靴。その革靴の足先が、立香の足元に影を作る。鼻につく重めのベルベッドムスク。
(……、嫌な匂い)
葉巻と隠しきれない薬草の匂いが混じった呼気を供に、死神が言った。
「人手、……ねぇ。知識もない、魔力もない、力もない。ドクタァ、俺ぁ思うんだが。人手がないのはその通りだが、それよりも物資が限られていることの方が大問題じゃぁないのかい?」
「ベリル」――、キリシュタリアが窘めるように名を呼んだが、目の前の男は楽しげに嗤うばかり。黒い(また黒だ)、革手袋に包まれた死人の手が、立香の白い喉に触れる。払いのけるより前に気味の悪い指先が気道を掴み上げた。
「ぐっ!」
「なんて細い首だ。今にも折れちまいそうだぜ」
「ベリルガット!」
ドクターの怒りを帯びた声に、「いいじゃない」と芥ヒナコが冷や水を浴びせる。
「そいつの言ってること、何か間違ってる? 食料も物資も全然足らない。ひとひとり、されど一人分の飲み食いをするのよ。それがどれだけこの状況で致命的か、……貴方が分からないわけないわよね?」
(彼にしては珍しく)責めるように芥を睨んだドクターは、それでも瞬きの間に視線を落とした。彼女の言い分に納得するところがあったから。立香は首を絞められるという危機的状況にありながら、当時の懐事情を思い返していた。
(確かに食料も物資も結構危なかった。ましてや、Aチームの人数分増えたら)
足りない。それはサバイバル状況の今、とても看過できる問題ではない。だが、じゃあ、自分が犠牲になってもいいかと言われれば、『冗談じゃない』。藤丸立香は生きなければならない。生きて、証明しなければいけない。
(わざとだ)
ベリルガットは本気で立香を殺そうとしているわけではない、今はまだ。彼女が反旗を翻すのを待っている、そしてきっと他の人々も。真剣に立香の身を案じているのは、ドクターとマシュぐらいだ。皆、興味がないのが半分、どう抵抗するのかを見定めているのが半分だ。足掻かねば――、両手をベリルの片手を掴む。笑っていた男の顔に、新たな感情が浮かぶ。貼り付けた仮面のような笑顔が、本当の微笑になった。
(ちくしょう!)
今すぐ殴り飛ばしたいと思った時。
『もしも』、を考えてしまった。
もしも。もしも、ここで自分が死ねば。Aチームが人理を救済するのだろうか。そうしたら、そうしたら。もっと沢山の人が救われて、もっと沢山の人の犠牲が無かった、のかもしれない。ドクターも、ダヴィンチちゃんも。誰も傷つかず、笑って明日を見れたのかもしれない。
両手に力が入らない。抗いたいのに、死にたくないのに。もしもが頭から消えてくれなくて――。死神の瞳から感情が消えていく。そして、……こきり。
(あ)
「止めて欲しいなぁ。イギリスの紳士がみな乱暴者だと思われるじゃないか」
気管に酸素が押し寄せる。堰き止められたダムから流れ落ちるような空気は開放感よりも痛みの方が強かった。
「げほっ、ぐっ、はぁ゛っ、」
ああ、可哀想にと誰かが立香の背を優しく撫ぜた。崩れ落ちた体を誰かの両手が抱き留める。ふわりと頬を掠めるその布地。そして、――深い森と死の香り。
(どうして)
涙が零れ落ちる。縋り付くようにその指に頬と両手を寄せた。嗅ぎ慣れたシダーウッドの香りに何もかも委ねて、意識が忘我の海へ旅立ちそうになるが。
「お前……、どこから現れた?」
ベリルの硬質な声で我に返る。立香を糾弾していた時よりも、遙かに冷たく張り詰めた空気が広がっている。反射的に釈明しようと口を開いた立香を制して。彼は愉快そうに巧言を弄す。
「|英霊《サーヴァント》に何処からだなんてナンセンスな質問だなぁ。……勿論、僕と彼女の運命が引き寄せたのさ」
彼は立香の右手を取り、その甲に口付ける。その下には、煌々と輝く朱。
「おいおいおい、召喚陣も無しにか? 大道芸は間に合ってるぜ、お兄さん」
「言っただろう? 彼女と僕は赤い運命の糸で繋がっているんだ。それだけで十分さ。ああ、それから確かにおしゃべりは得意だけどね。王を前にして、ピエロは無いんじゃ無いかな? 失礼だなぁ、まったく!」
ぷんぷんと頬を膨らませて言う彼に、――ベリルは笑わなかった。代わりとばかりに、ペペロンチーノが言葉を引き継ぐ。
「あら、ごめんなさい。どちら様だったかしら。生憎と歴史には疎くて」
頬を手に当てて口の端を釣り上げる怪物に、オベロンは胸を手に当て恭しく一礼する。
「これは失敬。女性に尋ねさせてしまうとは。ラフレシアの君、僕の名は……オベロン。そう、かの有名な真夏の夜の夢に謳われる妖精王オベロンだよ。みんな、よろしくね~☆」
妖精王――、その響きに一同は息を飲んだ。どの英霊も強力無比であることは間違いがないが、いずれにしてもそれは人間の枠組みの話。今、この場に現れた男は人ではない。妖精、しかもその王だという。油断がならない相手だということは全員の共通の認識となる。
「お、べぇ」
「ああ、だめだめ。喉を痛めてるんだ。イイ子だから静かにしておいで」
そういうとオベロンは立香を抱え込み、その丸い額にキスをする。
(なにをしてる!?)
その驚愕は音にはならず。急激な眠気が立香を襲い、五感を失わせていく。薄れゆく意識の端、最後の言葉だけが聞こえた。
「お休み、マスター」
◆◆◆
声が聞こえる。
聞き覚えのある声だ。
『君だって考えたことがあるだろ? 誰かなら、もっと上手くやった筈だと』
『その鎧。凄いのね。――私は、それが輝くさまを視ない』
『よく覚えておきなさい。”汎人類史のほうが平和だ”なんてとんでもないわ』
『いやぁ、”予言の子”は賢いなぁ。抵抗しても無駄だと分かってる』
『――この惑星の歴史は、我々が引き続ごう』
『人ならざる者たちの嘆きを、すべて踏みにじって進んできた。貴様らなぞに!』
『オレの目的は”秩序の維持”だ。それが人類にとって善い事だと判断した』
誰も彼も。何かに秀で、自分自身の願いの為にその身を捧げた。
私はといえば。彼らの足元にも及ばない。ただ、生き残った。ただ、生き抜いただけ。
後悔も懺悔も無い。――でも、知りたいと思った。あり得なかった『もしも』を。
重たい瞼を苦労して持ち上げると、はらりと自分の鼻の上に何かが落ちてきた。
カサカサとした感触。視界を覆う、黄色と橙色。深い森の香り。すぅうと深呼吸をすると全身の血液が洗浄されるような感覚になった。
「おい、いい加減起きろ」
黒い影。この土地の王が立香の顔を覗き込み、苛々とした言葉を落とす。どうやら、虫の居所が悪いらしい。よっこらしょっ、と立香が上半身を起こすとオベロンとの顔の距離が縮まってより鮮明に彼の表情が見えた。オベロンの鼻には深々とした皺が……。見なかった振りをしつつ、立香は尋ねる。
「どうなってるの? あれは夢?」
先程のカルデアはまるでとんちんかんだ。Aチームは全員コフィンの中で死亡した。彼らの最後を見送って立香は白紙化の地球を飛んでいたはず。当然、夢か幻かという疑惑を抱く。
「その前に俺の領域に馴染みすぎていることに異議を申し出たいんだか?」
「今更? きみと私の仲でしょう?」
「あっはは。言うじゃ無いか、ヱ?」
ドスのきいた末尾に立香はにこりと笑顔で返す。オベロンの鼻の皺が酷いことになった。
「折角の美人が台無しだよ」
かーっ、ぺっ! 文字通りの唾棄、チンピラもかくやという下品さである。しかし、話が進まないと諦めたのか。早々に彼は状況説明の口火を切った。
「あれは夢じゃ無い。じゃあ、何かと聞かれれば困るが」
立香に手を差し出し、その体を起き上がらせるとオベロンは手短な切り株に腰掛けて足を組む。
「だが、やることは分かっている」
きょろりと辺りを見回した立香はオベロンの隣の倒木に腰掛けた。二人の視線は交わらないまま話が進んでいく。
「きみが知るカルデアとの決定的な違い。言わずもがなAチームの連中だ。なら、自ずと方向性は決まってくる。人理焼却、その旅路を彼らに委ねろ」
「手伝うじゃなくて?」
駄目だとオベロンは首を振る。
「舞台の主役が端役に出てみろ。しっちゃかめっちゃかになるに決まってる。いいか、きみのやるべき事はひとつだ。『何もするな』」
今度は立香が鼻に皺を作る番だった。それを目撃したオベロンの口端が持ち上がり、……への字に曲がる。ふうと特大の溜息が彼の前髪を揺らした。
「どうせきみのことだ。言ったって聞きゃあしないんだろ」
その台詞に立香は(いいの?)と問うようにオベロンに視線を投げかける。蒼と緋の視線が交差して。根負けしたようにオベロンの瞳は伏せられた。煙るような睫の奥に秘め事の色を見つけ、立香はその身を彼の方に寄せる。
「ねぇ、何かあるの」
疑問符の無い確信めいた二度目の問いに、観念するように再び持ち上がった瞼。ハッと立香は息を飲んだ。
「オベロン、貴方」
綻ぶように。オベロンの表情が崩れる。
「どうして!」
非難の声にオベロンは立香の手に己のものを重ねて、「Shh……」と囁いた。
「無理矢理きみに付いてきたんだ。その上、あのカルデアからのバックアップは望めない。こうして顕現してるだけで精一杯だ」
立香の唇が何かを言おうと喘いで震えたが、一音とて零れない。どうして気づかなかったのか。ホームの秋の森の中だというのに、彼の霊基は酷く脆弱で心許ない。いつもの部屋でなかったのも、空間を偽装する余力すら無かったからなのだろう。
(どうしよう、オベロンが消えちゃう!!)
「はっ。消えないよ、……まだ、ね」
その笑みにとうとう立香の瞳から涙がドロップする。その涙色のキャンディをオベロンの唇が吸い上げた。
「ちゅっ、ちゅっ、……」
「ぅ、……やだ」
子供扱いにイヤイヤと顔を振る立香にオベロンの唇からからくすりと笑い声が零れ落ちた。それから――、その唇の向け先を目尻から頬へ。そして、唇に。
「ん、くち、あけて」
言われるがままに口を開きくちりと口内を鳴らすと、分厚い舌が立香のものを掬い上げるように浚っていく。
「んぁッ、ちゅっ、ん、ふ、む、……ンっ」
普段より性急な舌使いに改めてオベロンの異常を悟る。まるで、オアシスの水を飲むように立香の魔力が吸い上げられていくのだ。余りの勢いにチカチカと目眩がし、倒れそうになるがオベロンの手がそれを押しとどめる。そして、そのまま立香を柔らかな大地の上に横たえた。
「はぁッ。――ご覧の通り、弱体化した今の状態じゃ満足にきみを守ることなんて出来やしない。それどころか、きみが力を使えば使うほどきみからの供給量が減って……」
その先をオベロンは口にしなかったが、何が起こるかなど想像に難くない。無茶をすればするほど彼が弱まっていく。そして……、消滅する。
(やだ……!)
誰がそんなことを望むものか。これまで多くの保護者や同僚が、無茶をするイキモノとして立香の強情さを諦めてきたが、ここにきて思わぬ収穫。今この時、彼女は自分の心情よりもオベロンの生存に全力を注ぐ覚悟を決めたのだ。
「何もしない。……どうしようも無い時はあるかもしれないけど」
その『どうしようもない』が通常の人の三倍以上あるのが彼女の良いところであり悪いところでもある。この期に及んでの言い訳にオベロンは呆れた視線を投げてよこしたが、何か閃いたのかにっこりと人の悪い笑みを顔に貼り付けた。
「嫌な予感がする」
立香の言葉にオベロンはますます笑みを深め、彼女の胸部のボタンに手をかけた。
「いいんだよ、好きなだけ暴れて。何時もみたいにさ。……ただ、まァ、貰うモノは貰うけどね」
「えっち!!!」
「男はみんなそうだっつーの。というか、別にいいんだぜ? きみひとりにさせたくないという俺の親切心を踏みつけていけばいいじゃないか。人が虫を踏み潰すみたいにさ」
(それは、……ずるいよ)
オベロンの胸板を押していた立香の両腕から力が抜け、頭は深く垂れ下がった。あからさまに落ち込んだ様子の立香にオベロンが慌てる番だった。
「信じるなよ! 俺が言う事なんて嘘しかないって知ってるだろ。なぁ……」
ご機嫌取りに雨のように降り注ぐ優しい口づけ。流されていると思いつつも立香の心と体は、理性とは反対に容易く溶きほぐされてしまう。
「ん、……ん、」
彼の背に手を回して強請るように口先を尖らせた。与えられる刺激に、立香の足はかりかりと大地にひっかき傷を作る。
「りつか、……」
(――そんな声で呼ばないで)
『ちょうだい』も『欲しい』も言えぬ彼ゆえに。言葉の裏にある欲望の音はまっすぐで立香の胸を刺す。頬を森と同じ茜色に染めながら、彼女は――尋ねた。
「ね。ベッド……ある?」
「……ッ」
オベロンは喉を鳴らし、彼女の衣服を乱暴に剥いでいく。
「……そんな上等のモノ無いに決まってるだろ」
狼の、唸り声のような声だった。
◆◆◆
人トテ竜トテ、所詮はケモノ。秋の静かな森に捕食の咆哮が響き、狂乱の宴が幕を開けた。紅葉した葉の上に白濁と無色の液がぼたぼたとシミを作り、柔らかい腐葉土の上に幾筋もの線が落書きのように描かれる。
「はっ、ああっ! ……ん、はぁっ……! ひギっ、ああっ……! はぁっ……」
茶色い地面の上、土を引っ掻きながら立香は自分の股の間から零れ落ちる液体を見つめた。ぼた、ぼた、びちゃり。水音を立てるそれに、ぱんぱんっと皮膚がぶつかる音、ぐちゅぐちゅと内壁の肉を捏ねる音が重なり、彼女の耳を犯す。
「あっ、はッぁ、だめ、だめっ――! もっ、零れてるからぁ、……アっ!」
「はぁはぁ……っ、なに、零してるの。……ふっ、ふっ、ふぅっ。た、だでさえ……非効率な魔力供給してるんだから、……ちゃんと呑み込まないとだめだろう、がっ!」
ばちゅんっ!! 最奥で火花が散った。ぐりぐりと奥の穴に塗り込めるように先端が蠢き、立香に苦痛と快楽を同時に齎す。
「あっ、あーーーっ! いやっ! いやぁぁ……っ! ――オ゛っッ」
ゴリゴリとポルチオを捏ねていた屹立が、子宮口を持ち上げるように下から上に抉る。グゥ――、ぶるんっ。ぐりィ……、ぶるんっ。円らで可愛らしい立香の大切なところ。その一番奥で行われる情欲の走り火、心体を灼いていく真火。大きなストロークで意識が弾け飛ぶような無体をしたかと思えば、腰を押しつけたまま小刻みに立香の胎を揺らして泣かせる。途切れることのない責め苦にとうとう立香の神経が狂わされ、彼女の尿道から透明な琥珀がぷしゅっと地面を汚した。
途切れることのない責め苦、それは立香の神経は狂わせ、ぷしゅっ――、管の先から半透明の琥珀を吹き出し、地面を汚した。
「ひッ、ひっ……。わ、わたし、おもらししちゃっ……た!」
「はッ、はは! うれションとか犬かよ! ハァっ……」
オベロンが地面に倒れ伏す立香の秘穴から性器を抜き去ると、真っ赤に染まったその穴は、ジュポォッ――!と酷く粘り気のある水音を響かせた。立香を抱き起こし、その背を倒木に押しつける。乾いた木肌がチクチクとした痛みを立香に訴えているはずだが、快楽の熱に浮かされて気にした素振りはない。そのまま力の入らない立香の両足を折り曲げると、普段の誰の目にも触れることのない秘部がその門を大胆に開き、てらてらと光る陰唇をオベロンの前に晒した。オベロンの視線が、その割れ目から更に上――、ツンと上向いたクリトリスに向かう。小枝も入りそうもない小さな穴。それはしょろしょろと琥珀の液体を零れさせ、細い川のような筋を幾つも作っていた。オベロンは戸惑うことなくその注ぎ口に顔を近づけ――、じゅぅうううっと啜り上げた。
「あっ、ひぃぃっ♡ やだっ! 吸っちゃっ……! やだぁっ! オシッコっ、汚いからぁ、っ――!」
「んッ、ジュルッ、ジュルッ、ジュルるるるッ、」
既に土と枯れ葉で汚れた顔を、更なる羞恥とそして欲望に染める。綺麗なものをこれ以上ないほどに汚すのは、倒錯的でエロティシズムに溢れていて。……恍惚とした気持ちをオベロンの中に湧き上がらせた。最後のひとしずくまで飲み干して、オベロンは立ち上がる。
「あんっ♡」
凶悪なほど太い赤と黒の筋を纏った性器を立香の唇に押しつけた。
「咥えて」
ぐちゃぐちゃに汚れた顔と体のまま、立香はそろりと口を開いた。健気に開かれた口の中は真っ赤で、親に餌を強請る雛鳥のよう。そんな稚い仕草で、雄の性器を口にしようとする娘のアンバランスさに劣情が込み上げる。
短く犬のように吐き出される吐息。オベロンを見上げる、蕩けた琥珀の瞳。
(物欲しそうにしやがって……!)
辛抱堪らず、オベロンは真っ赤な口内に肉棒を突っ込んだ。
「んむっ! ぶぐっ! んぐっ!!」
ぱんぱんに膨らんだ両頬を手で押さえ込み、柔らかく小さな舌に裏筋をごしごしと擦りつける。
「ぁ、ぷッ――ン、ふぅ――ちゅむ、ん、ちゅ、ん、は、ぷぁ♡ ちゅっ、ちゅぅぅ♡ ちゅ、あむむ、ん……」
幼い顔立ちの立香が情婦のような舌使いでオベロンのモノを啜り上げる。マイルームの糊のきいたシーツの上で、特異点の茂みの中で、あるいは、オベロンの見せる古びたアパートの畳の上で。幾度となく交わされた情交により、立香はすっかりとオベロンのイイトコロを心得ていた。――吸って、扱いて、舐め上げて。立香が頭を前後に振る度に、彼女の腰も一緒に揺れる。彼女の股あたりから、ぴちゃぴちゃと尿と愛液を零す音が聞こえた。その様をオベロンは舐めるように眺め降ろし、――。
「……りつかっ、でる……っ!」
征服欲と射精感が彼の背を走り、我先にと一番敏感な部分に熱が溜まる。濃厚で弾力のある白濁が立香の口に勢い良く飛び出しいき、
「んッ♡ ――んく♡ ――っんく♡」
次いで、――。
「んんんんっ!? ブちゅっ……、ンぐッ……」
ぶちゅっ、ぶしゅっ――、飲みきれなかったものが立香の唇から噴水のように湧き出た。黄金色のソレは立香の喉と胸を汚して、地面に落ちていく。
「はぁあっ! ふぅっ、ふぅぅっ……! ……っ、ふぅー……」
ずるりと立香の口から抜かれた肉の塊は、項垂れた鈴口から彼女の唾液とその他モロモロを零し地面にシミを作った。
「ゲホッ、ゴホッ! ンッ、はぁ……はぁ……っ」
苦いのと酸っぱいの。喉の奥を手酷く灼かれた立香は、酷く息を乱しながらも地面に膝をつき髪をかき上げるオベロンの様子を伺う。
(お、終わった? す、………………凄かった。――いや、いつも意識失うぐらい激しいけど、でも、今日は一段と凄いっていうか何て言うか……。オシッコ、飲まれたし! 飲んじゃったし! ……の、飲むのはいいけど。飲まれるのは、むり。ほんと無理!)
恥ずかしいよぅ――、ひんひんと内心で泣き言を上げる立香だったが、その耳に信じられない発言が飛び込んできた。ビックリしすぎて涙も止まる。
「はぁ……っ、……ん。これで大体五十パーセントぐらいかな」
「うそでしょ???」
少女の絶望が森に木霊した。しかし、彼女は気づいていない。
カルデアからの供給が激減したオベロンには、定期的な魔力供給が必要であり、これから何度も同じように、いや、これ以上に、食い荒らされるのだということを。