Will you marry me?

どうして!?と泣き叫ぶ女に、男はさも当然のように言った。
飽きた――と。

「うわぁ……最低ですね」
たまたまマンションの前でかち合った女性(その時もひと悶着あった)をここ数週間姿を見ないなと思い、聞いたところ、「ああ、飽きたから別れた」と告げられたら、最低としか言いようが無い。
アルトリアは、とても兄に向けられたものとは思えない蔑んだ視線を投げた。
「お試しでいいからって向こうが言ってきたんだ。別に文句を言われる筋合いはないと思うんだけど?」
アルトリアとは少し違った色合いの髪をかき上げながら、オベロンは、プシュッと音を立てつつ、缶ビールの蓋を開ける。一口飲んで、不味いとテーブルに置く。もう飲まないらしい。その選り好みの激しさは女性関係も同様だ。これだけ見てくれがイイのだ。ありとあらゆる女性が声をかけて、是という言葉に舞い上がり、そして、――捨てられる。遊び癖が酷いと悪評が付いて回るのが、オベロン《アルトリアの兄》だ。
「立香に嫌われますよ……、ひえ」
ぼそっと呟いた禁句は、オベロンの逆鱗に触れた。冴え冴えとした目は、唯一、彼の手の内に置かれるアルトリアとて凍らせる。ひぇえ、こわっと首を竦めながら、アルトリアは沈黙した。
縮こまったアルトリアに、ため息を吐きながら、オベロンは立ちあがる。キッチンに向かうついでに缶ビールを手に取る。飲めないなら、料理に使うしかない。さて、何の具材があったかなと考えながら、コツンとアルトリアの頭に缶ビールの淵を当てた。つめた!と抗議の声が聞こえたが無視する。
(アルトリアが言いたいことは分かっている。……だけど、その本人に会えないんじゃ、取り繕ったって仕方ないじゃないか)
生まれて、二十数年――。
気が付けば産声を上げて、気が付けば、アルトリアが妹になっていた。意味が分からなかったが、妖精眼が無い世界は幾ばくか息がしやすかった。ついでに、呪いも無くなっていたので、世界ってめちゃくちゃだなと当時のあれやこれやを思い出しながら、齢5つにしてオベロンは黄昏れた。俺たちは|お前ら《世界》の玩具おもちゃじゃないんだ、バーカ!
とは内心罵声を浴びせつつも、どうにもならないのが人生。この世界だ。諦めの境地に立ちつつ、アルトリアの面倒を見る。彼女も記憶があるらしく、オベロンの世話を嫌がるが、諦めろ。お前は幼児だ。おむつに乳母車。おしゃぶりやぬいぐるみ。過去を知る者同士からすれば地獄のような家族ごっこだった。漸く、以前の自分たちの関係のようにしても世間体的に問題ない年齢になった頃、アルトリアが呟いた。
『立香もこの世界にいるんでしょうか』
正しく青天の霹靂。ピシャーンとオベロンの背後に雷のエフェクトが舞った。考えたことも無かったが、無い話ではない。これはいかん、と慌てて二人は両親に駄々をこねてこねてこねまくって、アニメの聖地、日本で暮らしたいと両親を困らせた。特にオベロンなどはアニメなんて好きだったのかと酷く父母を困惑させ、本人も屈辱を感じたが、これ以外妥当な主張が見当たらず、アルトリアに便乗して、アニメ好きということにした。普段大人しい二人の猛攻に折れ、両親はとうとう二人を日本に旅立たせた。しかし、そうまでして日本に来たというのに、――立香は見つからなかった。元から居ると言う保証があったわけではない。だから、これもまた仕様のないことだ。
それでも・・・・、俺たちなら、と思わなかったわけじゃない。幽ない希望が見えなくなった頃から、オベロンは酷く退廃的な生活を送るようになってしまった。牛肉のビール煮を作りながら、オベロンはため息を吐く。アルトリアが匂いに釣られて、お手伝いしましょうか?と背後から覗き込んでくる。
「お前のはお手伝いじゃなくて、つまみ食いだろ」
デコピンひとつ。もう一度、オベロンはため息を吐いた。

それから、数か月後、とうとう巡り会えた奇跡にオベロンは喝采を上げ、神様に感謝することになる。しかし、その一か月後、オベロンを襲った出来事にこれまでの己の所業をイギリスの北海より深く後悔し、ついでに神様にもクレームを入れた。『情緒の忙しい男よな』とは誰の言葉だろうか。

「立香!待て!……待てって!」
もはや走るようにして歩き去る彼女の手を、オベロンは必死に手繰り寄せる。
(何だってこんな事に――!)
いや、自分のせいだと分かっている。オベロンは、無理やり引き寄せた立香の瞳に涙が混じっているのを見てとり、百万回、過去の自分を殴りたくなった。
「彼女とは何もない!本当だ!」
必死だった。十年探し続けた彼女と漸く会えたのに、自分の過去の女癖のせいで傷つけた。立香とデートに出かけた先で、一番質の悪そうだった元彼女に出くわしたのは最悪としか言いようが無い。ほんの少し席を立って、戻った時に昔の彼女と今の彼女が同じテーブルについているのを理解した時は、どんな魔物を相手にした時よりも恐ろしかった。何を言われたのか、何を言ったのか、立香が酷く蒼褪めているのを見て、オベロンは怒りに目の前が真っ赤になった。オベロンが昔の彼女に何をしていると詰め寄れば、ヒステリックにお腹に貴方の子供がいる!と言われた。はっと酷い驚きがオベロンを襲う。一瞬戸惑ったのがいけなかった。立香がテーブルを立ち上がり、店を駆けだした。慌てて、店員に荷物を預け、後で支払いします!と叫びながらオベロンも立香を追おうとする。それを女が引き留める。長い爪がオベロンの腕に刺さった。相手は女性だ、とか、人前だ、とかそんなことはもう考えられなかった。女の胸倉をつかみ上げながらオベロンは言った。
「君と俺の間に関係は無い。二度とその顔を見せるな」
オベロンの本気の怒りに女はガタガタと足を震わせて、崩れ落ちた。凶悪な舌打ちをしながら、オベロンは女を突き放し、今度こそ駆け出した。

(奇しくもアルトリアの言う通りになってしまった)
やっとの思いで追いついて、荒い息のまま必死に縋って……アルトリアの言葉が頭の中でリフレインする。
『嫌われる』
(嫌だ――。ずっとずっと会いたくて、やっと会えたのに、どうして、)
オベロンの手を必死に放そうとする立香に苛立ちが募る。後から振り返れば、オベロンにしては珍しく動揺していたのだと分かる。サーヴァント歴x年、この世に生まれて2x年。トータルすると、結構な年齢だが、恋愛歴としてはそこらの男子諸君と変わらない。未熟者だ。だから、つい、言ってはいけない言葉を言ってしまった・・・・・・・・・・・・
「仕方ないじゃないか!俺だって、君に逢えるって思わなかったんだから!」
ポカンと立香がオベロンを見上げる。やっとの思いで合った視線に、オベロンは安堵して、――蒼褪めた。

今、自分はなんと言った?

「仕方ない……?」
オウムのように立香が言葉を繰り返す。
「あ――。違う、そ、そうじゃない。そうじゃなくて」
立香が笑った。オベロンは出そうとした言葉を引っ込める。それは、どこまでも悲しい笑みだった。
「そうだよね。仕方、ない、よね。……。私もオベロンも、こんな奇跡みたいなことあるわけないって、思ってたよ……ね」
つるりと彼女の丸い頬を透明な雫が伝い落ちていく。
「オベロンにも、私にも、どうしようもない今までがあって、……。だから、『仕方ない』。すっかり忘れてたね、この感覚」
ぐらりとオベロンの脳内が揺れる。『仕方ない』それは自分たちにとって、とても残酷な言葉だ。
奈落の虫だから、『仕方ない』。予言の子だから、『仕方ない』。――人類最後のマスターだから、『仕方ない』。
(俺は、なんてことを……)
顔面を白く染めたオベロンを気遣うように立香は、そっと彼の手を撫でた。大切そうに――懐かしむように。
「ごめんね。カルデアでの私達の関係は、過去のこと。この時代に生きるオベロンに押し付けちゃいけなかったんだ」
知らないふりをすれば良かったと立香は言う。残酷なことだ。オベロンは、ずっと立香に逢いたくて逢いたくて、逢いたかったのに。
でも、今、彼女に返せる言葉がオベロンには無かった。彼女にそう言わせたのが、オベロンだったから。
「でも――。逢いたかった。もう一度、逢えるんじゃないかって、信じたかった……」
ごめんね、と立香は笑う。オベロンは彼女を抱きしめようとした。言葉にならないから、カルデアの時のように己の身で伝えたかった。立香はオベロンの手を優しく離す。
身を引いた立香を、――抱きしめることは出来なかった。
「私ね、ちっちゃい時に両親を飛行機事故で……。従弟の家に引き取られて、家族のように暮らしてきたの」
初めて聞いたとオベロンは零れるように呟く。それに苦笑を返しながら、
「今、初めて言った、からね。うん、それでね。本当の家族になってほしいって言われているの」
話の流れが見えなくて、オベロンは眉を下げる。どうして、今、その話をするのだろうか。養子縁組、とオベロンの中で言葉が躍る。
「従弟、ね。私と同い年なの」
たどたどしく立香が言葉を紡いでいく。従弟。オベロンの背中が悪寒に震える。
「叔父さんと叔母さんがね、……自分の息子と結婚して、本当の娘になってほしいって」
あ、とオベロンの口から言葉と息が落ちた。
きみの意思はどうなんだ、とか、色々、色々と言いたいことがあるのに。何一つ言葉にならなくて。
だって、この子は藤丸立香だ。善良で、どがつくお人よしで。
そんな娘が、沢山の愛情と金銭と補助を与えてくれた人たちの願いを断れるだろうか。いいや、――彼女が藤丸立香である限り、出来ない。だから、『仕方がない』。

それでも――。彼女はきっと待っていた。オベロンのことを。オベロンと歩む未来を。
それを、オベロンが閉ざした。彼女の手でその扉を閉ざさせてしまった・・・・・・・・

ごめんなさい。と言って、去っていった立香の後姿をオベロンは呆然と見る。彼女の姿が見えなくなって、どれぐらいそこに立っていたのか分からなくなった頃。その背を叩かれた。幽鬼のように反射で振り返れば、そこにアルトリアが立っていた。
「立香から連絡を貰って、……。オベロン、帰りましょう」
この日、初めてオベロンはアルトリアに手を引かれて家路についた。二十年ずっと、オベロンがアルトリアの手を引いてきた。道に迷った時も、犬に追いかけられた時も、立香に逢えなくて泣いた時も。

アルトリアは家に帰るまで、決して後ろを振り返らなかった。
だって、この人は、――このどうしようもない兄は、今、きっと泣いているから。

 

白い封筒に。白い便箋。豪華な金のフレームが彩っている。
結婚式の招待状だ、――藤丸立香の。

そのシミ一つない、白い封筒を手に持ったまま、オベロンは教会の手前の路で立ち尽くしていた。この招待状、本来の送り先は、妹のアルトリアだ。流石にオベロンに送るのは気が引けたのだろう。オベロンだって来たくて来たわけじゃない。アルトリアに脅されたのだ。
『もう沢山落ち込んだでしょう?いい加減、覚悟を決めたらどうですか』
グロスターで無理やり舞台に上げた時のように、今度はオベロンが立香の結婚式に追い立てられた。
やられたらやり返す。彼女らしくて、オベロンは苦笑を零した。
(この想いに引導を――。引き際は心得ているさ)
美しい空、白亜のチャペル。まるで、死刑台に登るようにオベロンは、一歩その足を踏み出した。

♪~♪~♪
パイプオルガン奏でられる中、ゆっくりと扉が開かれた。新婦とその父役(恐らく彼女の叔父)が腕を組んで、バージンロードを歩いて行く。それを教会の一番後ろの列、入り口から一番遠い席でオベロンは見つめていた。
(時が止まればいいのに――)
この期に及んで馬鹿なことを想った。
時は止まらない。やがて、新婦は新郎の元、牧師の前に立つ。
「健やかなるときも、病めるときも……」
遠く牧師の声を聞きながら、オベロンは立香だけを見つめる。白いヴェールを纏った立香は、一番後ろの席からも輝いて見えた。
彼女が道を歩むとき、決してオベロンの方を見なかったから、彼女の横顔しか分からなかった。今は、……顔も見えない。
見えなくても、――きっと彼女は美しいのだろうとオベロンは思った。
「誓いますか?」
その言葉がオベロンの胸に突き刺さる。立香の顔が見えないのに、彼女の唇を開くのが、息を吐くのが、分かった。

ガタン――。

気が付けば、オベロンは立っていた。どよ。と場がさざめいた。牧師が少し動揺しながら、オベロンへと視線を投げる。そのことに新婦が、立香が気が付いて、後ろを振り返った。

(ああ。やっぱり、綺麗だ)

オベロンと立香の唇が音にならないまま、その音を形どったから。オベロンは、応えた。
「立香。――愛している」

馬鹿なことをした。折角の彼女の晴れ舞台を台無しにした。自分はこんなにも愚かだったのかと、オベロンは堪えられず、涙を零した。

「泣くほど嫌なら、最初からそう言えよぉ。も~、言わないままかと思って、こっちが心臓がつぶれそうだったわ」
どっと場が笑いに満ちる。
「え?」
新郎がしゃがみこんで、頭を抱えている。流石に白いタキシードでヤンキー座りは止めた方がいいのではないだろうか。場所が場所だし。
「え?」
全く持って事態に追いつけていないオベロンの背を誰かがぽんと叩いた。勢い良く振り返れば、青いドレスを着たアルトリアが立っていた。
「は?アルトリア?お前、招待状、……いや、それよりも」
何がどうなってと今まで見たことが無い程、狼狽えているオベロンに、にんまりと人の悪い笑みを返したアルトリアは彼の背をまあまあとバージンロードまで押し出していく。
「ちょ、いや、待って。……はあ?」
ここまで来て、何も分かっていないオベロンは珍しいなと思いつつ、立香のこととなるとポンコツになるのは昔から変わらないなぁとアルトリアは内心喜んだ。
とうとうオベロンとアルトリアは、新郎新婦の前まで来た。オベロンの視線が泳いで、そして、新郎と目が合った。
(――?)
結婚式の事で頭がいっぱいだったオベロンは新郎の顔をこの時初めてちゃんと見た。つきりと頭の片隅が痛んだ。何処かで、会ったような、そうでないような。
「はは、何が何だか分かんないって顔、初めて・・・見た。まあ、所謂、ドッキリってやつだよ」
事実はこうだ。
アルトリアがオベロンと立香のことを聞きつけて、立香の叔父夫婦と従弟に突撃したのだ。彼女は頭を下げて三人に頼んだ。どうか、兄にチャンスをくれないか――と。
きっとオベロンは身を引くつもりだろう。それも愛かもしれない。でも、自分は、嫌なのだと。ずっと立香を探していた兄を知っている。会えなくてやさぐれて、やっと会えた日、ずっと上機嫌で、鼻歌すら歌っていた。
どうしようもない兄だが、それでもアルトリアにとって大切な兄だ。よそ様の幸せに泥を塗る行為だと理解していて尚お願いします、と彼女は土下座をして許しを請うた。それに慌てたのは、従弟だ。
いや、聞いていないが――!?
……どうやら、叔父夫婦の勇み足だったらしい。なので、事はトントンと進む。流石に、オベロンの所業にひとつふたつ思うところがあったので、お灸を据えるのとオベロンの想いを試すために、親族一同で芝居を打ったのだ。
実は、オベロンが来てから割とみんなチラチラと興味深そうに見ていたのだが、普段から視線が集まるので慣れており、そして、脳内がポンコツになっていたオベロンは最後まで周りの様子に気が付いていなかった。

今度はオベロンがヤンキー座りをする番だった。両手で隠された顔の中から、はーっ、と深いため息が聞こえてきた。
すくっと立ったオベロンが、一番前の席、立香の育ての親である叔父夫婦の前に立つ。これ以上ない程深く、彼は頭を下げた。
「お許しいただけますか」
震える声に、叔父が優しく彼の肩を叩いた。叔母が涙ぐみながら、娘をお願いしますと告げる。
ゆっくりとオベロンが頭を上げる。もう一度、叔父夫婦に、そして、列席する関係者に頭を下げてから、アルトリアと新郎に向かう。
「迷惑をかけた、本当に……ありがとう」
にっこりとなんだか似たような顔で二人が微笑んだ。最後に、真っ白いウェディングドレスに身を包んだ立香を見た。彼女の前に立つ。今度は身を引かれても決して離しはしまいとその両手を取る。
「僕と、結婚してくれますか」
結婚式の場での答えは、何時だって『Yes』だ――。

「いや~、助かったよ!オベロン」
ニコニコと助手席で笑う男に、オベロンは引きつり気味の顔で「お役に立てて何より」と言った。
やっと手に入れた休日――土曜日の朝、オベロンの携帯がけたたましく鳴る。その音にオベロンは飛び跳ねるようにして電話に出た。他の電話ならすぐさま切っただろう。けれど、着信音を変えているこの電話の主からのものだけは何があっても絶対取らなければならないオベロンだった。グッバイ、俺の癒しの眠り。仕事? いいや? 今や自分の弟とも兄ともなった男の電話だ。
「もうさー、拘ったはいいものの待ち合わせの場所から凄く遠い場所で買い物しちゃって」
彼は膝の上に置かれた小さなショッパーを大事そうに抱えている。余裕を持って店に向かったものの、突然の列車の事故で交通手段が途絶えてしまった。どうしても待ち合わせに遅れたくないのでどうにか車を出してほしいと頼まれたオベロンだった。車をかっ飛ばして、彼を目的の駅まで届けた。寝起きのままきたので、頭はボサボサだし、完全に部屋着。脚なんかサンダルだ。外車が泣いている。
それでも、彼には一生頭が上がらない。己の蒔いた種だ。オベロンはハンドルに身を委ねながら、助手席から降りる彼を見た。オベロンと彼が笑う。その笑みはどことなく、立香に似ていた。
(当然か、姉弟同然に育ったんだもんな)
ドッキリ結婚式から、改めて彼女の生家に挨拶をした時、アルバムを見せてもらった。どれもこれも彼女と、彼女の家族の愛の溢れるものだった。その写真を見て、ああ、とオベロンは理解した。分かってしまった・・・・・・・

この男は立香が好きだった――、本当の意味で。

両親の、勇み足等では無かったのだ。
彼の真実の愛と無償の献身に報いようと思った。
必ず立香を幸せにする、とオベロンは二度目の誓いを心に刻んだ。

その彼がにこっとオベロンに笑いながら、言った。
「ありがとう、オベロン。流石にプロポーズ・・・・・の時に遅刻なんて恰好つかないからさ」
「へー、プロポーズ。それは確かに遅刻はまず、い……はあ!?」
バタンと無情にも扉が閉まった。ガラスの向こう、男がショッパーから小さな小箱を取り出した。上等な生地に包まれた箱。その中身がなんなのか察せられないほど愚かではなかった。それでも、オベロンは開いた口が塞がらない。だって、今日の彼の待ち合わせ相手は、――遠く駅の前にソワソワと落ち着きなく身なりを整えているのは、子供のころから見慣れた金髪の女の子だ。
少し気恥ずかしそうに、でも、しっかりと拳を握ってオベロンに見せた男の顔は不覚にも格好良かった。彼は待ち合わせ相手の下に走っていく。
「マジか……」
オベロンが呆然と見つめるその先で、二人が出会う。仲睦まじい様子でゆっくりと歩き出した。その手が、大事そうに繋がれている。それを見て、オベロンはハハと笑いを零す。
そして、祝砲代わりにクラクションを鳴らした。

Happy End!