さわさわと木葉が擦れる音で藤丸立香の意識は目覚める。前にも後ろにも木、木、木。彼女は、ひとり森の中に立っていた。夕暮れの色。黄色。橙。茶色。優しい、――秋の色。彼女の視界いっぱいに広がるその色彩に、ここが何処であるのかを察する。戦いの果て、最後の夢。幻の邂逅。本当の彼。ウェールズの森。
風が背中から吹いてきて、立香の橙色の髪を躍らせる。乱れる髪を押さえながら、その人の名を呼んでみた。
「オベロン」
冷えた秋の空気で肺が少し痛い。
音はシンと空気に溶け、――周囲の葉が微かに揺れただけだった。
(いるわけ、無いか)
嘆息して、踵を返そうと足に力を込めた。
『ダレ?』
ぴょこりと立香の傍に気配が生えた。
「うわあああ!」
立香の悲鳴にあちらこちらの茂みが揺れる。ぴょこ、ひょこ、みょん、しゃらら。
『オトモダチ?』『オトモダチ!』『ボーテガン』『オベロン!』
秋の森にいた小妖精たちだ。
前触れの無い彼らの出現に、立香の心臓はドッドッと忙しなくポンプする。
(――びっくりした!)
早る鼓動を宥めようと心臓に手を当てた立香だったが、落ち葉を踏みしめて現れた人影に一際大きく心臓が揺れた。漆黒の髪、白地の顔。草臥れた白ブラウスに異様なマント。蒼い瞳が酷く驚いた色で立香を見ている。
しかし、次の瞬間、くしゃりと嫌そうに皺が寄ってしまった。ああ、勿体ない。
「何やってるの。ここが何処だか、分かってる?」
「う、あ、その……私も意識してきたわけじゃないっていうか。不可抗力と申しますか」
申し訳なさそうな立香の態度に、オベロンは更に顔を歪ませた。イライラと組んだ腕を人差し指でタップし、早口で捲し立てる。
「大方、夢見が悪くてココに逃げ込んだんだろうけど。最悪の選択をしているとしか言いようが無いな。きみにとっても、――俺にとっても」
あからさまに迷惑です、と言われて立香はその身を縮こませた。誰だって、自分の夢の中に他人が土足で踏み込んで来たら嫌だろう。しかし、じゃあ帰りますとはならない。『たまに良くある』というやつだが、案の定、帰り方が分からない。
視線を右往左往させ、さて、どっちに行ったものかと頭を悩ませる立香に「はあ……」というため息。彷徨わせた視線がオベロンとかち合う。彼は短く一言「来なよ」と言い捨てて、森の奥へと移動し始めた。振り返る気配も無くスタスタと歩き去って行くので、立香は慌ててその後ろ姿を追った。二人は無言で森の中を歩いていくが、すぐに小妖精達がちょこまかと纏わり付いてきた。オベロンは眉を顰めながらも鷹揚に頷いて彼らに返事をする。
「クモの君、アザミのてっぺんに止まっている蜂の妖精と朝露を探してきておくれ。喉が渇いて仕方が無いんだ。ああ、ムシュー。そう、君だ、スズメガのひと。客人に花輪を用意しないといけない。とびっきりの春の花で作ろう。そうだな、クレマチスなんかいいんじゃないか。白い花弁のやつさ、しっかり探してきておくれ」
そんなことを何度か繰り返していれば、すっかりと二人の周りには誰も居なくなった。言うべきか迷うこと数分。立香は思い切って口を開いた。
「もしかして、人払い……うんと、妖精払い、した?」
ちらりと肩越しに振り返ったオベロンが口の端を吊り上げる。
(やっぱり……)
この森は黄昏。朝露なんてあるはずも無い。この森は紅葉。春の花なんてある訳がない。無垢にオベロンの言葉を信じて、森の中を探しに行った彼らが気の毒で、立香の足取りが重くなる。それを見咎めて、オベロンは拗ねたような口ぶりで告げる。
「少ししたら呼び戻すさ。それに暫くしたら言われたことを忘れて遊び出す連中なんだ」
大体いつもそう、と彼は言う。彼は嘘つきだけど、その言葉に嘘はない気がして立香は遅くなった足を前に出す。やがて、二人は朽ちた大木の前に辿り着いた。その幹には大きな洞がひとつふたつ――。クッションのような布製品も置かれており、どこか生活感がある。慣れたしぐさでオベロンが洞のひとつに入った。まるで、小さなベットのようだ。バサリとマントを閃かせて、彼は収まりを確認しながら横になる。どうやら納得のいくポジションが決まったらしい。ふわぁと大きく口を開けて欠伸。
ぼんやりとその動作を見守っていた立香に視線を合わせ、半眼で呟いた。
「俺は寝る。そして、君は好きにしなよ。ああ、うるさくはしないでくれよ? ただでさえ、眠りを邪魔されて億劫なんだ。これ以上の面倒事はごめんだね。……現実で眠れないなら、ここで寝て少しでもそういう気分に浸ったらいいんじゃない?」
ま、その後|ち《・》|ゃ《・》|ん《・》|と《・》目覚められるかどうか保証はしないけどね、とオベロンは意地悪そうに笑う。
(またそんなことを言う――)
今更そんな|虚仮威し《こけおどし》で、怯んだりはしない。むう、と口を尖らせて、立香はオベロンの傍に座った。彼は、立香をちらりと見てから、両目を閉じる。本当に寝るようだ。すうと彼の胸元が上下する。紺碧の視線が無いのを良いことに、立香はまじまじとオベロンの顔を観察する。他に見るものがないから、手短なもので暇をつぶすだけだ。他意は……無い。誰にと言うわけでも無いが、言っておかねばならない気がした。
(睫毛、ながーい)
見れば見る程、美しい造形をしていると思う。けぶる睫につんと空に向いた鼻。口も目も閉じて、穏やかに息を繰り返す姿は童話の挿絵のような、――。うっとりと立香は彼の顔を眺める。美しいと思う。けれど、それ以上に、(好きだなぁ)という想いがこみ上げてくる。彼が今の立香を見たら、妖精眼で全て分かってしまうから。オベロンが寝たふりをしている今が彼の顔を見つめるチャンスなのだ。
洞の縁に手を沿わせて、美形観察に勤しんでいた立香の横からふわりと風が吹いた。悪戯な風はオベロンの胸元のシャツを揺らし、普段見えない彼の肌を露わにする。
(うわ)
ドキドキと胸が鳴る。イケナイものを見てしまった。でも、そこから目が離せない。もうちょっと、もうちょっとだけ――。少しだけ身を寄せて、違う角度からその服の下を覗こうとして、ハッとなる。
「痴女じゃん」「ぶふっ」
思わず、口に出してしまった、――ら、笑い声。両目を瞑っているオベロンがうう˝ん、と咳払いをした。多分、必死に笑いをこらえているせいだろう。若干、頬が赤い。
「笑いたければ笑えばいいのに」「……」
どうやら、知らんぷりを継続するらしい。それならそれで、と開き直ってしまった立香だった。
「肌きれいだよね。ツルツルしてる……お手入れとかしているのかな」
そうっと彼の手の甲を撫でた。流石に怒られるかなと思ったが、予想に反してオベロンは何も言わなかった。ならばよし。何が良しなのか、謎の理論だが、立香的にはOKと捉えた。
手の甲からゆっくりと彼の手首へ。ブラウスの袖から指を滑り込ませた。くすぐったそうにオベロンの腕が揺れる。ぷちり、と彼の袖のボタンを外す。袖口が広がって彼の白い腕、肌が露出する。もう一度、立香はそこに触れた。肌と肌を重ねるのはとても気持ちがイイ。それが、好きな人なら猶更。気持ちはどんどん膨らんでいく。もっと、沢山触れ合いたい。いけないと思いながら、彼の胸元のボタンを突く。カリカリと子猫のように、爪でボタンで遊ぶ。そんなことをされてもオベロンは何も言わなかった。だから、そう。許されているような、そんな気持ちになって、ついついボタンを外してしまった。少しだけ広く胸元が開かれる。ごくり、と立香の喉が鳴る。
「あ――」
母音ひとつ。
『良くない/だめ/痴漢/セクハラ』
色々なノイズが立香の頭の中をぐるぐると回る。最後に本能だけが残った。
『触りたい』
そおっと、頬を彼の肌に寄せてみる。しっとりと肌が吸い付くような感触。はぁっ、と立香の口から艶っぽい息が零れる。
(気持ちいい――。うん?)
素肌の感触に酩酊していた立香の頭部に何かが触れた。五本の細い棒、オベロンの指だった。立香の項から髪の毛に差し込むように彼の手が、立香の地肌を擦る。背筋にぞわぞわとした刺激が走った。
「ひ、あ」
溶けた声だ。快楽に溶ける、甘い自分の声。何度も何度もオベロンの指が、髪の隙間を通り過ぎる。その度にぞくりと肌が泡立って、思わす腰が浮いてしまう。
「オベ、ろ……」
口から涎が零れそうになって、必死に唇を噛みしめた。じゅるりと咥内に溜まった唾液を飲み込む。ふっ、はっと息を荒げながら、目の前にあるブラウスのボタンを見つめる。気が付けば、ボタンに噛みついていた。歯と舌を使って、ボタンを留め具の隙間に押しやる。ぷつりと微かな音とともに、ボタンが外れた。ぷつり、ぷつり。その動作を繰り返して、――とうとう、最後のボタンになってしまった。立香は寄り添わせていた上半身を起こす。きっと今の自分の顔は真っ赤に染まっているんだろうな、と思いながら、オベロンの顔の方に視線を向けた。
紺碧があった。閉じられていた両目はしっかりと立香を映し出している。
(見られた!)と立香の頬が赤く染まる。
きっと彼には見えている。立香の快感に震える心と体が――。同意もなく異性の服を剥ぎとるというとんでもない己の所業に、立香の背中に冷たい水が伝った。
レディとして以前に人としてオワッタと内心呟いた時、立香の胸元の布地が引っ張られる感触がした。あれ?と視線を落とすと、伸ばされた異形の爪が胸元のベルトをカリカリと引っ掻いている。金色の瞳が驚きに二度三度瞬きをする。青年と自分の胸元を何度か見やって……。そして、はにかむように立香は笑った。
かちゃ、しゅる、シューッ。一枚一枚と立香は自らの服に手を掛けて、その装束を足下の地面に落としていく。黒い服は取り払われて、彼女の飾り気のないスポーティな黒い下着が見えた。防具も兼ねているので、かなり無骨の印象のそれは、下着と言うよりアンダーウェアという表現がしっくりくる。ジッとジップになっているフロントを降ろして。カチャンと最後の留め具を離す。ふう、と彼女は大きく息を吐いた。寸分の狂いも無く採寸され裁縫されている為、息苦しさはないはずなのだが、それでも固いそれから解放されるとため息が出た。
風が吹く。秋風は冷たい。晒された肌に鳥肌が立った。寒さにぶるりと身震いをした立香の手を誰かが掴んだ。ブルーの瞳が立香をまっすぐに見ている。引かれるままに、再び、立香はその身をオベロンの上半身に寄せていく。肌が――触れる前に、彼女の苺色の蕾が触れた。
「ぁんっ」
ビリッと背中に電流が走る。カクリと足下から力が抜けて。立香の体は折り重なるようにオベロンの体の上に倒れた。
「あ、ぁ、アァ……」
乳頭が、鎖骨が、腹が吸い付くように重なった。どろりと立香の股の間からヌメリ気のあるものが零れる。はふはふと息を乱しながら、立香は素肌を摺り寄せた。
「はっ――」
立香の頭の上から吐息が、零れ落ちてきた。立香は固く骨張った首筋に頬をすり寄せ、呼吸に上下する薄いその皮膚にキスをした。すりっと自分の頭の上に誰かが顎を乗せた気配。
「ん! ぅ、あっ、あ゛!」
背骨の位置を確かめるように指先が立香の背を撫でていく。息を荒げれば、優しい森の匂いが肺に溜まった。匂いに反応して、立香の脳がある種の電気信号を体全体に発信していく。その信号に身をくねらせる立香を誰かが笑った。
(だって……)
と立香が心の中で言い訳を始めれば、それを咎めるように大きな手が彼女の臀部を掴んだ。荒々しく双臀が歪められる。先程の繊細な指のタッチから一転して、こねるような動きのせいで、時折、股の間に空気が侵入してしまう。通り風に際立つひやりとした感触。立香は自分の秘所がしとどに濡れていることを何度も確かめさせられた。羞恥に立香の目元が滲む。また笑われる、と不安になる立香の下腹部が異変を感じ取る。くっくっと下から押し上げる感触。その一部が、彼女の恥部に触れ、その正体を悟った。恐る恐る自らの体の位置を変えて確かめる。
(あっ!)
固く、長いもの。そして、熱を帯びている。熱い――! その事実に立香の心が震えた。だって、彼は、そういう感覚からほど遠い人のはずで……。ましてや、自分相手には|そ《・》|ん《・》|な《・》|気《・》にはなりはしないだろうと思っていた。震える心のままに、立香をその顔を上げて、相手の顔を確認しようと……。
『オベロン?』
立香の目覚めの時のように、一匹の小妖精の声が近くで聞こえた。
「うおおおおお!?」「ひあああああ!?」
突如現れたお邪魔虫にオベロンは雄叫びを上げながら半回転して、立香を自分の下に押し隠した。ドッドッドッと二人分の鼓動がお祭り騒ぎになる。
「な、なんだい?!」
オベロンのひっくり返った声を、彼の体の下に追いやられた立香は息を潜めて聞いた。多分だけれど、オベロンのマントのお陰で乱入者には立香の姿は見えていない……はず。
『オトモダチハ?』
「ああ……うん、一緒にお昼寝してるよ。最近よく眠れなかったらしいんだ」
『ソウナノ? カワイソウ』
「うん、うん。そうなんだ。とっても疲れているみたいなんだ。だから、静かに向こう、えーと、そうだな……他のみんなと一緒に遊んでてくれるかい?」
『ワカッタ! オヤスミ、オベロン。オトモダチ』
「あー、うん、……おやすみ」
カサカサと彼/彼女が遠ざかる音がする。そして、暫くしんと静まった森の音だけを聞いた。ふーっとオベロンが大きく息を吐いたのを、彼の胸元の動きと音で立香は理解した。
「びっくりした……」「…………」
沈黙が続く。どうしよう、と立香は内心で呟く。熱に浮かされるような感覚は先程の出来事で全て吹っ飛んでしまった。前にも後ろにも行けず、立香はオベロンの体の下で窮屈そうに身を横たえているのみだ。オベロンも似たような状態なのだろう。引くべきかどうか迷いあぐねているような雰囲気が伝わってくる。
(本当にどうしよう)
立香はため息をついて、そして、大きく息を吸い込んだ。――それが良くなかった。
その鼻孔に先程よりも濃い森の香りが充満する。オベロンの体の下、その上にはマント。まるで布団をかぶったような状態の為、より濃密な香りが立香を包む。爽やかだけれど仄かに甘い汗の匂い。あ、これまずいかもと思ったときには遅かった。クラクラと立香の脳が揺れ、はあと酔ったような息が零れる。一息吸う毎に立香の体が痺れて火照っていく。まるで何かの状態異常にかかったような気すらした。……後で知ったことだが、どうやら立香はオベロンのフェロモンに当てられていたらしい。しかし、この時の彼女にはもはや正常な判断が出来なかったので、それを知るのはずっと後のことになる。
「立香?」
様子がおかしい彼女に気づいたらしいオベロンが、そっと彼女を自分の下から解放する。
「!」
とろりと溶けた蜂蜜色の瞳。熱が上がっているのか白い肌がピンク色に染まり、前髪は汗でしっとりと濡れている。じゅくじゅくと熟した果実のような匂いがぶわりと体の下から舞い上がってきた。がつん、とオベロンの視界が揺れて、琥珀と湖畔の瞳が交差する。ゆっくりとオベロンは持ち上げた体を伏せた。立香は顔だけ彼の下から解放された状態でその体温を受け止める。ふぅーっと、どこか覚悟を決めたようなため息。彼女の耳元をくすぐるそれに立香は身じろぎをしたが、ぎゅうとオベロンに押さえ込まれてしまう。再び、彼らの肌はぴったりと合わさった。
隙間無くふれあったところはしっとりとして気持ちが良い。突起の或る場所は、互いの呼吸の度に擦れて気持ちが良い。オベロンの体の下で、立香の体は発熱するように熱くなっていく。逃げ出したいのに、出られない。拘束されている感覚が心地よくて泣きそうになる。盛り上がった涙がころりと立香の頬を伝った。太陽から零れた真珠を、オベロンの舌先がすくい上げる。
「んっ、ゃ」
「ちゅぅ、ん」
立香の腰を掴んでいたオベロンの両手が彼女の乳房を下から持ち上げるように掴んだ。
「んぁ……はぁ……ぁぅ……ぁぁ……」
桃尻を弄られていた時より優しい動きで、白い双丘を揺らされるとジンとした快感が立香の胸に広がった。たぷたぷと浮かせたかと思えば、餅でもこねるように緩急のある愛撫。暗い洞の中で、世界から隠れるように立香とオベロンは行為に没頭する。もっと強い刺激が欲しくて、立香が強請るようにオベロンの手のひらに乳房を押しつけた。乳房の先っぽ、快感の強い場所を弄って欲しいのに一向に触れてくれなくて焦れったいのだ。もういっそ自分で彼の手を誘おうかと思った時、するりと彼の手が柔らかいふたつの水桃を手放してしまう。
(――どうして?)
再び、立香の瞳が滲んでくる。焦らされて焦らされて、体が弾けてしまいそうだった。眉を下げる立香の視界に、のっそりと影が差す。顔の横に垂らされる黒い髪は彼女を隠すヴェール。そのまま陰は立香の顔の上を通り過ぎて、頭頂にぽすりと落ちていく。図らずも彼の首元に立香はキスをするような形になった。初め混乱に目を瞬かせていた立香だったが、腹立たしさがこみ上げて、抗議の印にその白い雪肌をきつく吸い上げた。ちゅうちゅうと少しずらしながら、その首を吸い上げると微かにオベロンの体が震えた。(ざまあみろ)と立香は満足げに付いたばかりの桜貝の跡をちろちろと舐める。仕返しとばかりにオベロンが体重の圧をかけてくる。ぐえと立香は苦しげに喘いだ。くつくつと彼の喉仏が動くのが見える。
(もう! ……)
すりっと頬を首筋にすり寄せたら、頭の上にちゅっというリップ音が聞こえた。キスをされた――。愛おしげな、と感じられるその仕草に立香の頬が赤く染まる。そういう、そういうことする!? 嬉し悔しと彼の背中に手を回し抱きついてみた。すると、戸惑うようなけれど確かな抱擁が返る。
(うれしい。うれしい!)
陶然とした感情が胸を満たす。ずっとこうしていたいと思った。触れ合う肌が離れがたかった。しかし、背中を浮かせたこの体勢はちょっと辛い。体力には自信がある方だが、背中の筋肉がぷるぷるし出したので、立香は重力のままにその背を地面に預けた。大地の安定を得て、ほぅと立香は安堵のため息を零す。が、次の瞬間、静まったはずの呼吸が耳の奥から飛びでそうになった。オベロンの手がいつのまにか腰元に移動し、彼女の最後の砦ともいう黒い下着にかかっていた。触れ合わせた胸の奥、トクトクと彼の鼓動が聞こえてくる。随分と忙しない。緊張しているのだろうか。いや、興奮しているのだろうか。
(だれが? ……彼が?)
それは酷い違和感だった。熱に浮かされていた彼女の頭が霞を払うように冷静さを取り戻していく。カチッとスイッチが入るように世界の音が立香の耳に届く。カサカサと落ち葉の擦れる音。風が伸びた草を揺らす音。それらを聞きながら立香は、嘘でしょ、と困惑する。随分と身勝手なことだと糾弾されても仕方が無いが、ひとつの違和感が熱に浮かされていた思考がひっくり返し、秋の空気に冷やされた心がいつもの立香を呼び戻してしまった。容赦なく振り払われるなら分かる。侮蔑と共に手酷く抱かれるも分かる。でも、こんな風に愛おしさがあるかのような、――。
自分に|そ《・》|れ《・》が向けられるはずが無い。喉が詰まって、目の奥がツンとする。だって、彼の本当は……と不安で胸が苦しくなる。だめだ。こんなのは彼の綺麗な想いに泥を塗る行為でしか無い。止めなくちゃ。急速に立香の中で罪悪感がこみ上げてくる。睦言を途中で止めるのは、経験の無い立香にも無粋だと分かる。でも、きっとこれは良くないことなのだ。良くないことだったのだ。立香が始めたなら終わりも告げるのも彼女だ。
ごめんなさい、と彼女の唇が形作ろうとした。しかし、それを遮るように荒々しい何かが彼女の口を覆ってしまう。
「ん!? む、っ! ん゛っ」
生ぬるくざらりとした肉が彼女の口の中を擦りあげる。どことなく怒りを感じるその所作に立香はただ翻弄されるばかり。まるで、嵐の中に放り出された葉っぱのように、思考と心が巻き上げられていく。
『考えるな――』
無遠慮な口づけをする相手の顔を掴もうとする。けれど、
『立香――』
立香の手から自然と力が抜ける。代わりに、その頬に手を沿わせた。怯え縮こまらせていた舌を捧げるように彼の方に差し出しせば、ぬるりぬるりと蛇のような彼の舌が絡め取る。味のしないはずの交接は、立香に痺れと甘さをくれた。――黒い嵐が、立香の何もかもを奪っていく。
彼の手は、立香の下着の隙間に入り、するりとその布地を太ももまで追いやった。体を少し下げて、更にその布地を引っ張る。
「立香」
その声の意図を正しく理解して、彼女は足を浮かせて彼の動作を手伝った。黒い下着が足の甲を伝って、暗がりのどこかへ消えていく。見えないその先を考える余裕はどこにも無い。立香は今、オベロンの体の下で何もかも彼の前に曝け出している。ん、とどこか切なさを帯びた立香の声が零れた。
ふわり。
身じろぎをする立香とオベロンの体の間に何か薄い空気のようなモノが吹き上がる。
(なに?)
立香の疑問はすぐに解けた。再びオベロンがその体を彼女の肌に合わせたから。
「あっ!」「ん」
張り付く体に布地の感触がしない。マントは着たまま、その下の装束を消したのだと分かった。胸が彼の肌に触れて潰れる。腹と腹がくっついて呼吸の度にとんとんとお互いをつつき合っている。そして、――彼の熱いそれが立香の恥部を撫でている。すりすりと彼女の下生えを筋張った棒が通り過ぎると立香の体の温度がまた一度上がった気がした。一度消えたはずの情欲の炎は、以前より苛烈さを帯びて燃え上がる。まるで、最後の灯火のように。
ずるずるとオベロンの頭が下がる。正確には、彼の体全体が立香の体の下段へと移動していた。
「はぁ、ン! ……はっ、はっ、はっ」
肌が擦れて、脳天へと電流が流れていく。じゅわっと立香の腹の奥が温度を上げた気がした。堪らない。溶けて無くなるかも、と立香はありもしないことを思った。――いや、自分の思考が溶けているのだ。ああ……と自嘲の笑みが零れる。しかし、次の瞬間には「あっ!」と上擦った彼女の声が飛び出た。すっかり強ばりの抜けた立香の体に再び力が入る。
立香の秘奥を隠すふっくらとしたふたつの花丘。それらをふにふにと交互に押しながら、オベロンが呟いた。
「やわらかい。……春の土みたいだ」
オベロンの指が頂から丘を辿っていき、その下りの終着点にたどり着く。くちゃり。粘着質な音。その音の正体に立香の呼吸が乱れてうまく息が吸えない。酸素不足に頭が白み始めた。
「きみ、死んじゃいそうだね」
息をして――、とオベロンが彼女の胸元で囁く。その言葉に励まされて、立香は苦労しながらも大きく息を吸い込む。やっとの思いで酸欠から脱出。立香の呼吸を確かめてからオベロンはその指を再び動かし、水の零れる場所を辿っていく。丘を登っていたのとは反対に、秘された花園を潜る長く細い指。節くれだった場所が立香の花びらをなぞりあげる。
「ぁっ…… ひっ!!」
幾度と立香に悲鳴を上げさせながら、その指はすっぽりと彼女の花びらの内側に収まった。トクトクと立香の鼓動とは違う脈動がオベロンの指を揺らす。
「話には聞いたことはあったけど……水を出すって本当だったんだ」
最も理解不能な行為だったので、聞き流してたけど、変な感じと彼は素直な感想を述べる。それを言われた立香の方は堪ったものでは無い。揶揄では無く、幼子のような感想の方が羞恥を煽られてしまうのだ。
「き、汚いから……も、離して」
蚊の鳴くような声にオベロンが不思議そうな顔をする。
「? 防御反応なんだろ、これ。滑りをよくする、潤滑油だって聞いたけど」
その言葉を体現するように彼の指が立香の筋を往復する。ちゅるくちゃ、くちゅくちゅ。水音。あぁと立香の声が上擦って、体が震えてしまう。彼の認識は合ってる。合ってるのだけれど、それはどれだけ彼女が感じ入っているかを如実に表すパラメータだ。自分の興奮度合いを知られるのは流石にちょっと、いや、大分恥ずかしい。
「へえ……」
あんまり感じの良くない相づちだった。相手の弱みを握った、そういう意味合いの。それを証明するように、彼の指の動きが大胆になった。早く強く――、オベロンの指が立香の陰唇を滑る。刺激に従順な立香の花奥は歓喜の涎を零した。次から次へと湧き出るそれは、春の雪解けのようで、けれど、メープルシロップのように|と《・》|ろ《・》|み《・》がある。その上、微かに甘い匂いを発していた。スンとオベロンの鼻が鳴る。
(虫が好きそうな匂いだ)
はしたない粘着質な音と哀請に満ちた喘ぎ声が洞の中に木霊して、二人の脳を攪拌する。ああ、頭がおかしくなりそう――立香は肢体をヒクつかせながら、高みが近づいてくるのを感じた。このまま頂に登るかと思われたが、ぬるま湯につかるような穏やかな上昇は、突如現れた電流に何段も上の空に突き飛ばされた。
「ひっ! ……やあああああぁぁぁぁっっ!!」「!?」
立香の悲鳴に驚いて、オベロンの動きが止まる。焦点の合わない立香の目が、猫のように瞳孔を開いた彼の顔を捉えるが、それどころではない。彼女を襲った電流は立香の体を魚のように飛び跳ねさせた。二度三度跳ねて、弛緩。くったりというよりぐったりという風情の彼女に、恐る恐るオベロンが声をかける。
「どうしたの」「あ、……ぁ、……そこ、だめぇ」
そこ? という言葉にオベロンが首をかしげる。ふいに彼の指が動いた。
「ひんっ! そこぉ、だ、だめなの……」
オベロンの中指の先端が立香の花芯を捉えていた。くりっとした小さな木の実。ぷっくりと他の部位より飛び出ている。それが立香の|だ《・》|め《・》|な《・》|と《・》|こ《・》|ろ《・》だった。
「…………」
オベロンは無言のままその花芽をクリリと転がした。
「――ッひぁぁあっ、……っあ、だ、だめって、あぁんっ、ひぁぁ……ッ!」
彼の指は止まらない。涙を零す立香の顔を覗き込んで、「きもちいい?」と囁いた。立香は顔を横に振り、その緋色の髪がパサパサと宙に飛ぶ。
「嘘。――だって、さっきからすごい量の水が出てるよ」
ほらとオベロンが中腹に指を這わせると、もうそこは水風船でも割ったかのように濡れていた。ぴちゃぴちゃではなくて、びしゃびしゃだと立香にも分かった。ひんひん、と立香は子犬のように鳴いて、イヤイヤと首を振る。立香がいくらだめと言ってもオベロンはその花芽をいじめるのをやめない。とうとう、立香は本格的に泣き出してしまった。それには流石のオベロンも慌てる。
「これで泣くのかよ」「だって、だって、だめって言ったのにぃ」
妖精國では見ることの無かった立香の涙にオベロンは戸惑う。……仕方なく、ペロペロと彼女の頬を伝う涙を舌で拭ってやると、すんすんっと鼻を鳴らしながら立香が懇願した。
「気持ちいいの、……怖い。優しくして」
初めてなのだ、と彼女の心が訴える。オベロンの眉が少し下がって、彼も困っているのが分かった。これまでの言動から、彼も初めてなのだと分かる。
陽気で話し上手な王子様。鮮やかな翅を閃かせて、あちらにこちらにみんなを楽しませてくれる妖精王。――でも、本当は世界も妖精も人間もみんな、みーんな大嫌いな王様。知ってるような素振りで本当は知らなかった。アイの交わし方も、女の子に優しくする方法も知らなかった。……知らなくて良かった。必要なんて無かった。誰かに触れるぐらいなら殺してしまった方がマシだった。暗がりに引っ張り込んで、愛声をあげる相手をプッチと潰してしまえばそれでオワリ。ずっと、ずっと――そうやってきた。
惑う瞳を見て、立香が優しくオベロンの手に触れる。
「ん……ここの、奥に、触れて」
最後の方の言葉は、本当に小さな声で。耳の良いオベロンで無ければ、きっと聞き逃していた。立香に導かれるままに、オベロンは指を花びらの中に埋めていく。
「あのね、あの……どうするか、知ってる?」
主語を外した言い方に彼女の羞恥が窺えた。オベロンは少し視線を彷徨わせながら答える。
「あれだろ……その、穴に、入れるんだろ」
「どこか分かる?」
「…………」
今、触れてってお願いしたところ、……です。と意味も無く敬語になりながら、立香はオベロンに告げる。その間にトンとオベロンの指が立香の入り口に届いた。見たことも聞いたこともないので、穴はどこだろうか、と彼の指が戸惑っているのが分かった。
「ココの……あっ」「!」
彼の指の先が立香の肉の中に埋まる。小さな隠し穴。ぶわりと立香の額に汗が浮く。はっはっと息が上がると、腹の下、入り口に入った指の形を意識してしまう。細くて所々に硬い皮膚がある指は、立香の戦いで傷つきながらも女性特有の柔らかい手とは違う。オベロンは男の人なんだ――、と立香はその事実を心の中で反芻する。当たり前のことなのに、ドキドキする。
ズッと彼の指が立香のその先に進み、彼の口から感嘆の声を上げさせた。
「うわ。泥の中みたいだ」
むっと立香の眉間に皺が寄った。言うことにかいて、泥とは――失礼では無いだろうか。その心を読んだのか、オベロンが思わず「俺に美辞麗句なんて期待するなよ」と愚痴をこぼす。オベロンに向けられるじっとりとした非難の視線。その視線が気に食わなかったのか、彼は指を鍵状にして内壁を擦った。「あっ」と立香の体が快にくねる。彼の顔が満足げに歪んで立香を見下ろす。しかし、満足そうにしていたのも束の間、再び戸惑いの表情に戻った。
「……ねえ、狭くない?」
「……」
「これ、ココにいれるの?」
すりすりとオベロンが彼の逸物を立香の太ももに擦りつけて尋ねた。そのはずだが、……立香も自信が無かった。オベロンのモノが標準的にどうかというのは、他人のを知らない立香にはなんとも言えないが、少なくとも彼女の秘穴には到底入りそうに無かった。
「慣らせば、入る、みたいなんだけど……分かんない」
だって、処女。幸か不幸か、彼女は男を知らないままで今日まで来た。カルデアの英雄は色を好む精神のものが多いので、耳年増ではある。しかし、戦時中、しかも成人前の少女に実践を等という非常識は居なかった。いや、一部いたりするが、源氏警察が取り締まった。
「ふーん。まあ、取りあえずやってみるか」
取りあえずとはなんだ! 立香が再び憤慨するも、オベロンの指がくちゅくちゅと中で動き始めたので、その非難は喉の奥に引っ込んだ。快感に耐えるため、立香は目の前のオベロンの肩に噛みつく。小さな虫にも劣るその勢いは、噛みつくと言うよりは口に咥えた程度のモノだったが。慎ましやかに閉じていた彼女の花弁は、オベロンが指を増やす毎に花開いていく。マントの下に隠されて何も見えないが、入ってくる指と空気に自分の秘所が開かれていることを実感する。はぁっと愛声ともため息ともつかぬ空気が彼女の唇から零れた。
「本当に潤滑油なんだね。ほら、指が三本入ったよ」
くちゃっとオベロンがわざとソコで音を鳴らした。
「ナカ、意外とつるっとしてるけど、指を抜こうとすると吸い付いてくる」
実況はやめて欲しい……恥ずかしさで死にそうになる。オベロンはゆっくりと指を引き抜いてその有様をわざわざ立香に教えてくる。彼女の心の声は聞こえているはずなのに。今なら羞恥で百年ほど引きこもれそうだ。……確かに、彼の指を惜しむように立香のナカの肉が蠢いている。そして、彼の最後の指が引き抜かれた時、ちゅぽっという信じられない音を立香の耳が拾う。
「聞こえた?」
「…………」
「井戸に桶を落としたみたいだ」
「その絶妙に微妙な例え方、どうにかならない?」
むっと今度はオベロンの眉間に皺が寄った。
「処女のくせに」
「童貞のくせに」
むっ。むむむっ。
「黙らせるぞ」
「やれるものなら、ね!」
じゃあ、遠慮無く。とオベロンが体を、具体的には腰を動かして、彼の先端を立香の股の間に擦り付けた。ぴゃっ!と立香の体が跳ねる。その期待した通りの反応に、にやりとオベロンが笑った。
「さっきの勢いはどうした?」
「……っ、ん、ンッ」
刺激に漏れ出る声を必死に噛み殺そうとする立香だったが、ジュルッジュルッと滑る竿の刺激の前には無駄な足掻きだった。
「あぁッ、ふっ…く、んんああっ…!」
また、立香の秘穴からどろりと液が零れる。
「また零したのかい? ……これ以上、俺の寝床をきみの水で汚されたら困るなぁ」
どうしようか、とオベロンが言った。立香は焦がれるような視線を彼に向ける。どうする?と再び彼が問いかけてきた。立香は両手をそっと、彼の逸物があるであろう場所に伸ばす。
「! なに?」
立香の手の中で微かに息づくそれを立香は自分の秘奥に宛がって、
「だれも見ていないよ。見えない限り、それは証明されないの。だから、」
その切っ先が泥濘みに嵌まっていく。でも、それは――
「ああ……そういう。いいよ、|そ《・》|う《・》|い《・》|う《・》|こ《・》|と《・》にしておこうか。くっ……、転寝してるだけってことだろ、はぁっ」
「あっ……そ……そう……っふ……っ……ぅ゛あ゛ッ」
その身の三分の一のが埋まったところで、立香は膣内に引っかかりを感じる。ああ、もしかして、これは……。オベロンの青い瞳が立香の瞳を覗き込んできた。最終確認。
「うん……きて」
ぐっと彼の体に力が入り、その背が丸まると彼のマントが小さな山のように膨らんだ。顔まですっぽりと覆われて、立香の視界は真っ暗闇になる。はー、はー、と獣のうなり声が聞こえる。ごそごそと立香の体を何かが這い回った。ぐちょ、くちゃという水音。そして、立香のナカが切り裂かれていく。
「あっ……あ……!」
くぷんという感触で、彼が入り口を通り抜けてナカに押し入ったのが分かる。彼女の内壁が艶めかしく彼の肌に吸い付いた。トンと臓器を押し上げられて、立香の一番奥が鳴く。
「アッ」
トントントンと最奥がノックされる。
「あ、……そ、そこ、一番深い、ところだから、あ、あっ……あ……!」
「ッ、立香。ねえ、」
何か出そう、と暗闇が喋る。何かとは、ナニかではないだろうか。ぼぅっとしながら立香は思った。
「入り口も、奥も、ぅッ、締め付けてくるから、ハ、ねえ、これ出していいの」
まだ入ったばかりなのに、吐精されるのはちょっとばかり残念な気もするが、切羽詰まった声にうん、と立香はか細く答える。すると、立香のナカにあるそれが大きく膨らんだ。ぐうううと腹が圧迫される。
「え!?」
想像以上の膨張に立香は快感よりも恐怖がこみ上げた。どぴゅっ!!噴射音が胎のナカで破裂した。それに比例して立香の子宮が何かに満たされていく。
「ひっ! や、やだぁっ…… なにこれっ……!」
「ナニって、精液だろ?」
ぐりぐりとオベロンが切っ先を奥の壁に押しつけてくる。たっぷりと精を放ったはずのそれはまったく硬度を減らしていない。はぁっとオベロンが吐息を零しながら、立香と彼女の名を呼んだ。予想外の出来事に呆然としていた立香が、のろのろと顔をあげる。ニヤッと見えないはずの瞳が笑った。
「はっ、はっ、はっ……! も、やだぁっ お腹、破裂しちゃうよぉ いっぱい、もうお腹いっぱい……!」
立香の泣き声がマントの下でくぐもって響く。ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅ。びゅっびゅっびゅっ! 酷い音が立香の耳に入るが、それどころではない。膣内の圧迫感にひぃっと彼女の悲鳴が上がる。一度の射精がどうやら人の何倍もあるらしいオベロンが、もう数度も立香のナカに精を放っている。見えないが、彼女の腹が確実に膨らんでいるのが分かる。そして、彼女の尻は膣から溢れた精液でぬるぬるに。絶え間ない抽挿の手助けになっていた。
「あっ、はっ、……立香、立香っ!」
ごちゅごちゅとオベロンが腰を彼女の恥丘に押しつけてくる。ふわふわとしていたその白い丘は、度重なる衝撃に真っ赤になっていることだろう。
「はッ、はッ、ぃッ……!? 止まって! あっ……! 止まってぇ……ふッ、んぅ、!!??」
もはや責め苦のような快感を与えてくる相手に、立香は舌っ足らずにどうして止まってくれないのかと尋ねた。
「あ゛っ、ふっ……、どうせっ、どうせ、明日には忘れるんだろ!」
ぱぁん! 破裂音が洞に響く。あああーっ!と立香の高みへと登る声が反響した。過ぎる快感の中で立香は必死に暗闇に手を伸ばした。闇に慣れた瞳が、苦しそうに彼女を抱く影を捉える。彼の首を両腕で抱え込みながら、耳元で叫んだ。
「馬鹿にっ……ああっ、ん、……しないでよっ!」
誓いのような想いを乗せて、立香は口づける。――忘れないよ。絶対、貴方との思い出を手放したりしない。
「ん、……でも、きっと、これが うッ、最後だ」
そうなんだろ?とどこか切なげな声が聞こえる。律動は嵐ような荒々しいものから海のさざ波のようなものに変わっていた。その波を立香は胎の中で優しく抱きしめる。
「ねぇ、なら……会いに来て。私も、貴方に会いたい。……一緒にいたい」
「…………」
とちゅとちゅと彼のモノが立香の奥で跳ねた。幼子が母の膝に擦り寄るような仕草で、オベロンは立香の首筋に頬を寄せた。
「俺に『続き』を書けって?」
「違うよ。『続き』を書くのは私。私が、貴方の続きのページを書きたいの」
「もう一度舞台に上がれ、なんてよく言えたな。しかも、きみの舞台に? 真っ平ごめんだね! ……と言いたいところだけど」
グリッと彼がその先端を、立香の最奥の壁、そして、もうひとつの入り口に突き当てる。
「あっ! ……あ、ぁ、……」
目を見開き、息を喘がせる立香を横目に見ながら、彼は言う。
「報酬があるなら、考えなくも無いよ」
くりくりと彼の切っ先が立香の奥に強請るように口づける。
「ひぁ、あああ! ……そこ、はっ!」
だめ、と言いかけた口を閉じる。快感と痛みを飲み込みながら、立香は囁いた。
「んッ、んッ、あっ……今回だけ?」
「ずっと」
心なしか早口に彼が答える。
「今日から、ずっと。……ここ、俺のにして」
熱槍が、その隆起でずりゅずりゅと立香の内壁を削りながらナカを移動する。そして、彼女の一番奥の扉をこじ開けようと鎌首を持ち上げた。立香の扉の鍵穴にぴったりと合わさる。
「……はぁっ、んっ ……うん」
微かに立香が頷いて、彼女の奥がちゅうとオベロンの先端を吸った。オベロンの体の輪郭が滲んで、ぶわりと膨らんだ気がする。暗闇に爛々と瞳が輝いて、
「契約成立……印を刻もう。――妖精との契約だ。破れば酷い目に遭うぞ」
「わか――、きゃぁっ!」
ガツンと扉に槍が刺さった。ごりごりっと奥で、侵入が始まる。先の丸い部分を鍵穴にくぷりと差し込んで、オベロンが低く何事かを呟いている。到底人の言葉に聞こえないそれは、妖精の言葉だろうか。それとももっと古い神代の? しかし、入ってはいけない領域に先端が食い込んだ立香の頭は真っ白で、どこか他人事のような呟きだった。
「ひっ! あっ……あ……! あっ……! あっ……!」
彼の先端からぞろりと植物の蔓のような魔力が伸びて、立香の最奥を這う。普通では決して触れられないソコを這い回る異物感。快感と言うより怖気に近い。立香は泣きながら、オベロンにしがみついた。
「やだぁ!」
「んっ、もうちょっとで終わるから、我慢して……」
「もう、だめ、だめぇええ、こわい、オベロン、こわいよぅ!」
恐怖に思考が染まった立香の腹の中で、『—』が咲いた。何かが見えたわけでは無い。けれど、確かに|咲《・》|い《・》|た《・》と直感した。何をしたの?と立香が怯える目でオベロンを見る。
「マーキングみたいなものだよ。俺の魔力の結晶を|植《・》|え《・》|た《・》」
自分以外の魔力があれば、この結晶が反応して、それを焼き払う。また、定期的にオベロンの魔力を注ぐ必要があり、不足すると疼きを伴って立香を苛む、らしい。……事を早まったかもしれないと立香は思った。青ざめる立香を見て、彼は笑う。
「もう遅いよ」
何度精を放とうとも、決して外に出ようとしなかった熱がずるりと引き抜かれた。
「ひんっ、……」
こぽっと最奥で空気の抜ける音がする。こじ開けられた鍵穴がヒクヒクと収縮を繰り返して、元の形に戻れず苦しそうに喘いでいるのが分かった。本当に串刺しにされた気分だった。また、呼吸の度に、ぴゅくぴゅくと白濁が立香のナカから飛び出してくるので、なんだか粗相をしてしまっているような気分になる。惨めさと涙がこみ上げた。
「ん、んっ」
ぽろぽろと零れる立香の涙を、ざらりとした舌が慰撫するように拭う。
「誰にも言うなよ?」
「い、言えないよ……」
呼ばれたら、予想外な素振りをするから大根役者だけはやめてくれよ、とオベロンが言うので、立香は困ったように笑う。
「自信ないなぁ」
「……はぁ」
「だって、うれしいもの」
オベロンは沈黙する。
「嬉しくて、……嬉しくて泣いちゃうかも」
「……きっと。カルデアに行けば、本当のことは何も言えなくなる」
だから、今言うよと彼は囁く。
残したいものなんて無かった。夢見る明日も欲しくなかった。ただ、一度、会いたかった。会って証明したかった。どんな者にも意味があるんだって。明日を、続きを望むその権利があるんだと。
立香の膨らんだ腹に手を当てて、オベロンは言葉を綴る。
「ココに俺が、居る――。幻のような俺の一部が、未来に走るきみとともにある。どんな時でも、どんな場所でも」
伏せられた睫に透明な滴がぽつりと乗る。それはきっとただの汗だった、けれど、まるで彼が泣いているみたいに立香には見えた。
「貴方と私の『続き』を……ずっと、ずっと一緒に」
「きみの輝きが途絶えようとも、俺たちの『続き』は消えない。決して、|終《・》|わ《・》|ら《・》|な《・》|い《・》」
だから、会いに行くよ。きみと、俺たちの『続き』に。
暖かい気持ちが立香の心に溢れる。このぬくもりがある限り、きっと最期まで走って行けると思えた。例えこの先、何があったとしても――。と感動に身を震わせていた立香の眉が酷く歪んだ。
「なに……してるの」
低い声が彼女の怒りを物語っている。
「ん? だって、ほら……何時会いに行けるか、分からないからさ」
なるべく満タンにしておいた方がいいだろ?と飄々と言うので、立香は腕を振り上げて抗議した。
「もういっぱいなの! 溢れてるのが見えない!? ……きゃう!」
入り口を彷徨っていた彼の雄がずぷりと花園に侵入する。
「遠慮しないで、――まだまだいっぱいあるからさ♡」
立香の太ももにずっしりとした袋が当たった。その重さにぞっとする。嘘でしょ?と立香が震える声で後ずさるが、その細腰をがっしりと男の手が掴んだ。
「お願い。妖精さんでいて」
「残念。俺は底なしの虫だよ」
死んでも離さないと、オベロン――、奈落の虫は笑った。
不思議な文様の上で、七色の宝珠が光る。目を焼くような光が満ちて、……弾けた。
「……なんだこれ。なんだってこんなコトになっている……? ああ、そう。人理が安定するまでは嘘も嘘のまま通るってコト? はあ……いいよ、諦めた。そういう人間だもんな、きみは。僕の名はオベロン。喚ばれたからには力を貸すとも。
心底、気持ち悪いけどね?」
――さあ、俺たちの『続き』を始めよう。
【了】
「ひぁ、あああ!だめぇ!そこ、だめぇ!」
「う、あ、あ、あ――っ!!!!」
「っい、イくっ、イきそ、だめ、っで、出る、ああっ、ぁあああああああっっっ!!!」
「ん、くっ……はぁっ、ぁあっ! あっ、あ、あっ、あっ!」
「あんっ、あんっ!だめぇ!お願い!やめてぇ!」
「は・・・っ・・・っ・・・」
カルデア召喚前、秋の森で逢瀬を重ねる二人
立香ちゃん、痴女気味 オベロンの服を脱がせて、肌を合わせる
→森の小妖精に見咎められて、逢瀬を止めてしまう
オベロン、基本的になすがままだけど、嫌って言ってないから、実は合意
→立香ちゃんが来なくなって、焦れたので、カルデアに召喚された
召喚されたオベロンを見て、挙動不審になる立香ちゃん
→鼻血が出る
→「うわ、きみ、どんだけ欲求不満なの」「ちがっ!」「うん、鼻『血』だね」「いや、確かに、血(ち)だけど!そうじゃなくて!あ゛ああーー!」
マイルームのオベロンにからかわれて、開き直る
→「そうです、私がどスケベマスターです」私が変態おじさんです、のノリで
→「どスケベ『な』マスター、な。そのまま読んだら大惨事だよ、きみ。
カルデアを滅ぼす気か?俺はそれでもいいけど、さ。――汎人類史の終わり方としていいの、それ」
上半身の肌合わせ→立香ちゃんは満足してたら、オベロンが腰を揺らしてアピール
→「ん……、下も?」下半身の肌合わせ
全身肌合わせ→立香ちゃん大満足、再びオベロンが(以下、略
→「やったこと無いから、上手くなくても怒らないでね」入り口を探して、こすこすしてしまう→オベロンが呻く
合体→上半身を倒してオベロンにくっつく立香ちゃん、満足。いや、だから、怒りのオベロン
→菊門をいじめて、口で何をして欲しいか示すオベロン
オベロンの言わんとするところを理解して、漸く、頑張る立香ちゃん →無事に二人ともいく
うっとりと余韻に浸る立香ちゃんを見て、オベロン爆発→「良くも好き勝手やってくれたな」→「え(合意じゃないの!?)」
→オベロンは真実が話せないから、『仕返し』として、形勢逆転する
→「勝手に口づけるな、勝手に服を脱がすな、勝手に触るな、勝手に気持ち良くなるな」「そ、そんな~!(合意じゃないの!?)」
→「(合意に決まってるだろ)……、俺の許可なく気持ちよくなったらお仕置きだ」立香ちゃんを快楽でいじめるオベロン
→「勝手に気持ちよくなりません」
→「早速嘘をついたな。今、気持ち良くなっただろう?」
→「だって、だってぇ」「お仕置きだ」「殺生な!」「言っただろう、『勝手に』気持ち良くなるなって」「……気持ち良くなりたい、いきたい、いきたいよ、オベロン」
→懇願する立香に満足そうに笑うオベロン「そうそう。ちゃんと許可を取らないとね。ほら、気持ち良くなっていいですか、言ってごらんよ」
→「ひ、ひ、き、気持ち良くなっていいですかぁ」「だめ」「!!なんでぇ?お願い、お願い~!」「どうしようかな?」「おね、お願い、オベロン。気持ち良くなりたいよぉ」
→「仕方ないな。立香は、マスターなのにとってもいやらしい女の子なんだね」「う、う、ご、ごめんな、さい。エッチで、いやらしいマスターでごめんなさっい」