水底の星

折角の水着が勿体ないと言う立香に手を引かれ、オベロンがホテルのプールに連れ出されたのは人気の途絶えた夜半のこと。
「だから、泳げないって言ってるだろうが!」
「別に泳がなくもいいじゃない。ほら」
スポン――、気の抜ける音と共に立香の素足が夜の風に晒された。彼女はぺたぺたとプールの端まで歩いていくと、その白い指先を水中のライトに照らされた水面に沈み込ませる。
「気持ち良い!」
弾けるような笑顔で立香が背後のオベロンの方を振り返った。
「オベロンも!」
伸ばされた手から目を逸らすように。パーカーを少し下げ、オベロンはため息と共に歩き出す。プールサイドまで辿り着くと、青いビーチサンダルから足先を抜き、――くるりとサンダルが裏返ってしまったが整える気力も無く――、立香の隣に腰掛けた。ちゃぷりちゃぷり。冷たい水が足の間を通り抜けていく。昼間の暑さと喧噪はすっかりと水平線の向こう側に。遠くから聞こえる波音と足元から聞こえる水音がぶつかって不協和音を奏でている。
(……穏やかだな)
ふわりと吹いた風が、オベロンの頭に被せられたフードを悪戯に巻き上げた。フードの中で蒸された頭皮が涼やかな風で癒やされていく。オベロンの肩から自然と力が抜け、人目が無いのであればと後ろ髪に落ちたフードをそのまま風の乙女に好きなようにさせる。その浮いた髪を――、誰かが撫でつけた。オベロンが自身に触れることを許す人間などこの世でただひとり。指先の持ち主へと視線が動く。水平線に消えたはずの太陽の光がふたつ、オベロンを見つめていた。
「どうかな?」
「……まあ、悪くないんじゃない?」
ぎりぎり及第点という体で答える彼に、立香は小さく笑みを浮かべる。彼女は視線を正面に戻すと、勢いをつけて水を蹴り上げた。ぱしゃっ、ぱしゃっ――と水飛沫が少し離れた水面に落ちていく。
「子供かよ」
「子供だもーん」
そう言えばそうだった。揚げ足を取られたオベロンは少し眉を寄せて鼻をならす。それを「いひひ」と悪戯な少年のような顔つきで立香が面白がったが、次の瞬間にはつまらなさそうに唇を尖らせた。
「なに?」
「……ねぇ、やっぱり泳ぎたい、かも」
「だからさぁ」
「つ、浸かるだけ! 泳げないなら私が手を繋ぐから! ねぇ、入ろうよ……」
「…………浸かるだけ、だからな」
「――うん!」
惚れた弱みかと諦めつつ、オベロンは上半身に纏っていたパーカーとインナーをプール脇のチェアに投げ捨てる。これで満足かと後ろを振り向いて、ギョッと眼を見開いた。立香はオベロンと同様にシースルーのパーカーを脱ぎ、そして、ショートパンツのベルトに手をかけていた。
(…………)
蜘蛛の巣に捕らわれたように、視線が彼女の指先から離れない。オベロンが呆けている間にも、立香は迷い無くベルトを外し、ウェストのボタンに手をかけ、……。『ジーッ』という音が酷く大きな熱を持ってオベロンの鼓膜の奥に響いた。滑らかな白い足が、皮を脱ぎ捨てるように衣類の間から抜け出る。支えを失った衣は彼女のくるぶしに落ち、艶やかな肢体がまろびでた。纏う色は、蛹から孵った蝶のように鮮やかなライトグリーン。普段、彼女が選びそうにないカラーリング。アルトリアと同じデザインだが、白い紐が彼女の腰回りに柔らかく食い込んで丸みを帯びた体の曲線を強調している。
(……おいおいおい)
立香は足元に落ちたショートパンツを拾おうと身を屈めた為、彼女の乳房が重力従って、たゆんと下に揺れる。立香が身を起こし、――身を起こす動作で再び揺れる彼女の胸元を凝視していたオベロンとバチンと視線が混じり合った。
「……えっち」
「止めろ。胸を寄せるな、頬を染めるな、しなを作るな!」
ああもうっとガシガシと髪を掻きむしり、オベロンは自身の体をプールの方に向ける。漸く視線は解放されたものの、今度はちゃぷちゃぷと揺れる水面にぎくりと身をこわばらせた。――掌に汗が滲む。
(溺れる虫、藁を藻掴むってか?)
やはり止めるべきだったかと尻込みをしていると、彼の右手に小さな指が絡む。柔らかい癖にしっかりと握った手に嫌悪は無い。
「大丈夫」
「……」
「私がオベロンの手を放さないから」
不承不承、オベロンは鉛のように重い足を一歩踏み出した。

ぷかぷかと、二人の男女が手を繋いでプールの波に身を委ねている。右手は立香、左手はプールサイド。情けない姿ではあるが、溺れるよりはマシとオベロンは水を被らないよう体勢を維持することに集中している。しかし、苦心する彼の右手がくいっと軽く引っ張られた。集中を邪魔された不機嫌そうにオベロンが視線を移すと、立香は少し頬を染めて……。
「こうやって皆で、はしゃいで、騒いで、遊んで、――夢みたい」
「……」
オベロンは繋いだ手に力を込めた、言葉にしない(出来ない)想いを返すために。

なんでもないこの時間が夢のようだという彼女。
自分は子供だと言うことすら勇気を振り絞った彼女。

彼女は酒を飲まない。どんなに英霊達に誘われたとしても、未成年だからと酒を固辞する。敵を見据える琥珀の瞳も、土煙を上げて跳ね上がる足も、しなやかに伸びた手も、全てが大人へと変わっていくのに。
――ネバーランドに取り残されたウェンディ。

(憐れだな。そして、救いようが無いほどに)

であれば、己に出来ることはただひとつ。
「楽しい記憶のまま、終わらせてあげようか?」
半分嘘、半分本気。どちらでもいいと思いながらオベロンは立香に尋ねる。彼女の相応しい終わりを齎すのは自分以外あり得ないのだから。それが、今か未来か。それだけのこと。
立香はオベロンの言葉に少し驚いた顔をして、
「少しだけ、潜ってみて」
と指先を下に向けた。
「あ゛?」
「大丈夫、大丈夫。何事も挑戦だよ」
巫山戯るなとオベロンが声を上げる前に、「せーの!」と立香が勢い良く水の中に消えた。慌ててオベロンも体を沈めるが、両目は恐れからぎゅうっと閉じたまま。ゴボゴボという耳障りな水音と静寂に支配される空間に怖気がする。思わず口から空気が抜けそうになった時、……再び右手が引かれた。そっと瞼を開く。ブルーの瞳が恐る恐る水中を見渡すと、探していた金色は直ぐ側にあった。穏やかな笑みを浮かべる立香が「下、下」というように人差し指で水中を指さす。
(なんだ?)
言われるがまま下を見て、――全ての音が遠くに消えた。ゆらゆら、ゆらゆら。青い水の中でライトアップの為の照明が光っている。光が波の形に歪み、不規則に明滅している。それは、まるで。
(……星)
暫しその光に見とれ息が苦しくなった頃、立香が急速に身を上昇させた。オベロンもまた、繋がれた手に導かれるように水上へと登る。――水底の星を置き去りに。

「「ぶはっ!」」
はーっ、はーっ、と荒い息がふたつ。
「ごほっ、ゲホッ、……二度と、水になんか入るかッ!」
「……ふっ、あはははっ!」
「笑ってんじゃねー!」
あははと笑いながら立香がオベロンの体に飛びついた。
「――おい」
柔らかな乳房の感触に戸惑いながら、オベロンは立香の背に腕を回す。その指先も彼女の背の皮膚に柔らかく食い込み、力を込めて良いものか戸惑ってしまう。そんな彼の様子など気づかぬまま、立香は自分の鼻先をオベロンのものへと近づけ、「見えた?」と笑いかける。
「……何が言いたいわけ?」
「こんな所にも星があるんだよ」
「はぁ?」
「きっと、もっと沢山の星があるよ」
「……」
「見下ろす星も、見上げる星も、ぜーんぶ。……、一緒に見ようよ」
「はぁ、……殆ど無期限労働宣言じゃないか。ソレ」
オベロンは立香を抱き上げて、自分自身もプールから上がる。放り捨てられた上着を取り上げ、――立香の顔面に投げつけた。
「わぷっ」
「もう満足しただろ? 帰るよ」
ええー!と抗議の声を上げる彼女に手を伸ばし、告げる。
「とっくに夜の帳は降りてる。朝のひばりが鳴く前に、……『子供』はベッドに入らないとな」
ニヤリと笑うオベロンに、立香は鼻に皺を寄せて威嚇した。彼の揶揄に『子供扱いするな』と反論してしまえば、先程の揚げ足取りの意味がひっくり返る。怒りの矛先を失った立香の様子にオベロンはケタケタと笑いながら、彼女に一歩身を寄せる。
「それとも。帳の向こうに連れてってやろうか? そうさ、そこで『何が』あっても観客には見えやしない」
オベロンは彼の節ばった指を立香のホルダーネックに引っかけて、――ぱちん、弾いた。
「ぁ……」
かそやかな声と共に立香の頬に朱が走る。彼の行動の意図に気づけぬほど、彼と彼女は初な関係では無かった。長い沈黙の末。彼女は息を潜めるように、「――」と囁く。オベロンだけが聞き取ったその答え、彼は蠱惑的に笑みを浮かべる。そして、恭しく彼女の手を取り、その濡れた手の甲に唇を寄せた。
「そうそう、『良い子』は寝る時間だ。長い夜に閉じ込められる前に、……ね」
濡れた体が夜風に冷えぬよう、二人は身を寄せ合いながらホテルの灯りへと消えていく。

がさり。二人がいた場所の近くで草音。
がさがさっ。一際大きな草音とともに出歯亀が三人、茂みから這い出た。
「ふーっ、アイツ、気づいてたわね」
「あああああ、ネタを書く手が止まらない~~~~」
「かーっ! 流石は妖精王! さらっとああいうことが出来ちゃうわけね。侮りがたいわ」
ジャンヌオルタと刑部姫、そして敏腕編集者のクロエは偶然見つけた噂の二人に、これはロマンスの予感!と草場の影から見守っていたのだ。
「今年のサバフェスは終わっちゃったけど」
「次の新刊はあの二人で決まり!」
「腕が鳴るわっ!」
きゃぁきゃぁと女子特有の黄色い声で、三人が好き勝手に予定を立てているとその頭上に、ぬぅっと影が射した。大きな、大きな、黒い影。
「「「え」」」
キチキチキチ。口から威嚇音を発する大きな影。その正体は、――巨大なダンゴムシ。とても見覚えがあるなぁ。例えば、オベロンが使役しているあの子。などと思っている間に影はその巨体を三人の上に傾け。
「「「にぎゃーっ!」」」
ばっしゃーんっ!
夜のプールに盛大に立ち上る大きな水柱みっつ、……穏やかなルルハワの夜だった。

 おまけ(帳の向こう側にて)

ぱたん――、扉が閉まる音がやけに大きく部屋に響いた気がした。トクトクと自分の鼓動が少しだけ早鐘を打っているのが分かる。腰に添えられた大きな手を意識せずにはおられず、からからの喉から絞り出すように尋ねた。
「シャワー。……浴びてもいい?」
「ん」
短い答え。素っ気ないと言うよりは言葉が続かないという風に聞こえてしまい、(オベロンも緊張とかするのかな)と立香は恥ずかしげに俯く。立香の声が聞こえたのか、そんなことは無いと言わんばかりにオベロンの手が呆気なく離れた。拗ねさせてしまったかと焦りつつも、解放された温度に思わず立香はほっと息を吐いた。しかし、このままじっと立っているわけにも行くまい。意を決してバスルームへ視線を走らせた時、それを遮るように大きな腕が立香を囲ってしまった。
「え? えっと?」
意図が分からず振り返ろうとした立香の耳元に、艶めかしく理性を狂わせる吐息が吹きかけられた。
「……一緒に?」
カッと全身の血が首筋から顔の方に駆け上がった。耳元に寄せられた薄い唇は首筋へと下り、産毛立つ皮膚を吸いあげる。
「んっ!」
全ての神経がそこにあるような錯覚。触れ合わせた皮膚から唇を離さないまま、オベロンが立香の名を呼んだ。
「りつか」
きゅうんと胎が震え、膣が何かを探してひくりひくりと蠢く。その感覚に足から力が抜けそうになり、回された腕に縋り付いて。辛うじて座り込むのを堪えた。
「はっ、あ、」
息が上がる立香の耳に、低い笑い声が聞こえた。
「なに? 俺の声、そんなに良かった・・・・?」
なんと性の悪い男か、立香も黙ってやられるのは好きじゃ無い。胴に回った手を取り、彼の中指を持ち上げる。そして、唾液が溜まりつつある口の中へ突っ込んだ。
「!?」
舌のヒダを彼の指腹にこすりつけ、舌先を指の付け根に這わせる。そして、最後にじゅうと指全体を吸い、その薄い肉を噛んだ。
「っ、このッ……」
悪態とともに下腹部が押しつけられた。固くて熱いものが、立香のヒップラインをなぞる。しかし、立香は生来の負けん気が恥ずかしさより上回った状態だったので、その屹立を柔らかい臀部で摩り上げながら、「シャワー浴びてくるね」と余裕を見せた。意趣返しに満足してバスルームへ歩き出そうとした立香だったが、しっかりと掴んだオベロンの腕がそれを許さない。そればかりか、不埒な手が彼女の脇腹を撫で唾液に濡れた指で彼女の乳と水着の境目に潜り込んできた。
「あっ、ん、っだめ、シャワー、が」
「随分と汗をかいてるじゃないか、こんなところまで」
ビキニラインをなぞりながら、オベロンが囁く。確かに汗はかいたが、とっくに夜風に冷まされ濡れてはいなかったはず。だが、立香の唾液に濡れたオベロンの指が這うせいで汗でぬめるような感触が残されていた。
「事件解決に逃走奔走したマスターへの特別サービスだ」
隅々まで綺麗に洗ってあげるよと言い放つ声のなんと楽しげなことか。冷や汗を滝のように流しながら、立香はバスルームへとドナドナされた。

「あっっ、そこ、いやっ、オベロンっ!」
真っ赤に膨れ上がった肉芽を摘まみ上げながら、その根元をボディソープで丁寧に撫で上げる。肉の芯をくりくりと転がす度に、少し日焼けした白い足が打ち上げられた魚のように跳ね回った。
「自分の目だと汚れが確認しづらいだろ? 綺麗にしてあげるからさ」
芯を押しつぶすよう親指で撫で上げれば、白いソープの泡とは異なる液体がじゅぷぷっ♡と立香の陰唇から吹き出た。
「あーあ。折角綺麗にしている側からこんなに汚しやがって、なぁ?」
ずぶりと中指を秘穴に突っ込むと、立香の口からひいいと聞くに堪えない悲鳴が飛び出る。下を弄れば上が動く。まるでそういう楽器のようだと思いながら、膣内を引っ掻く指の速度を上げていく。
「あっ、えぁ、お゛、あ、、あ、ああああ」
頂点に上がる寸前で指を引き抜けば、かくりと傾ぐ体。それを「おっと」と言いながら、オベロンは腕一本で抱え上げた。力の抜けた体をタイルの上に慎重に横たえて、細い両足を大きく広げる。煌々と光るライト。水に濡れた秘部がてらてらと光を反射している。下唇を広げれば、ナカのピンク色の肉壁もしっかりと見えた。いつもなら、恥ずかしがって蹴りの一つや二つ飛んでくるものだが、散々、快楽に揺さぶり、思考を焼き散らした後なので何の抵抗もなく観察作業に勤しめるというもの。くぱりと開いたソコは正しく貝のような形で、奥側の肉がひくひくと息をするように蠢いている。試しに指を近づければ、ぱくりと呑み込んだ。ちゅるちゅると強請るように指を吸われ、実に加虐心を煽ってくる。惜しむように縋り付くナカから指を抜き、シャワーヘッドを掴む。出力は最大、広げた下唇に近づけてジャーッ!と勢い良く水流をぶつけた。
「ァアアアアア!」
閉じようとする足を体を差し込んで妨げ、逃げられぬ快楽によがる体と甲高い悲鳴を堪能する。
「あははは、水に溺れる虫みたいじゃないか」
「オ、……ロン! オベロンっ!」
もうダメと愛し子が鳴く。
「……」
きゅっと蛇口を止めて、息絶え絶えの唇へ覆い被さる。
「これで分かったろ? 優しい男がお好みならさっさと他を当たれ。その方が君の為だ」
はぁ、はぁ、と不規則な息を繰り返す赤い唇が戦慄いた。
「き、す、して」
オベロンは数秒動きを止めて、――肺から全ての息を吐き出すように大きな嘆息。
「は゛ぁーっ、……もの好きにも程がある」
「オ、ベロン、きす、してぇ」
「はいはい」
ほらと舌を差し出せば、ちゅうと小さな唇が吸い付いてきた。甘い唾液に誘われるように口内をなめ回し、吐息を吹き込む。
「んむっ、はむ、ぁう」
ちゅっ、ちゅるっ、ちゅぱっ……。小さな水音だけが、シャワールームに湿っていく。暫くお互いの唾液を啜っていたが、立香の眉間に深い皺が刻まれる。腫れた唇を離せば、切実な訴えが。
「はぁ、はぁ、……せなか、痛い」
当然ながら地面は固いタイル。長時間寝転んでいて良いものでは無い。いい加減、オベロンも膝が痛くなっていたので、立香を抱えてバスタブに移動。ざぷり、と二人分の重量を受け、水が端から零れ落ちた。
「「ふぅ」」
温かいお湯に揃って息が出る。髪をかきあげたオベロンの首元に立香がすりすりと顔を寄せて、「えへへ」と幸せそうにはにかんだ。子猫のような仕草に苦笑が零れる。
「何が嬉しいんだか」
「オベロンにくっつくの気持ちいい」
「あっそ」
気のない返事の割に立香の髪を撫でる手つきは柔らかい。そんな彼の不器用な優しさに気づかない立香では無い。首元から顔を上げて、バードキスひとつ。
「エッチ、する? 口がいい?」
「……聞くなよ」
「自分は聞く癖に~」
不満げな顔しながら、立香はよいしょっとオベロンの体を跨いだ。未だ固さを失っていない屹立を持ち上げて、自分の入り口へと宛がう。
「んっ」
「っ、立香、うっ、」
愛液は水に流された為、入り口は開かれているものの、乾いたナカが異物を拒んだ。
「こっち」
挿入に戸惑う立香の背を引き寄せて、その胸飾りを口に含む。
「ひぁ、ん…」
ころころと口の中でその実を転がすと、じんわりとナカが湿ってくる。
「んっっ、ぁ、あんんっ、噛んでぇ……っ」
かりっ――。刺激に反応してじゅわりっと潤滑油が湧き出た。その勢いにオベロンの屹立は立香の奥深くに滑り込む。
「ァッ、あァッ」
包まれた肉壁は温かく柔らかい、さしものオベロンも長い間お預けされた性欲には耐えきれず。
(くそ……、少し出た)
「あっ……んっ。……でちゃった?」
「……」
図星。それを認めるのは悔しいので、下から突き上げて誤魔化した。
「やっ、まってぇ、……はげっ、しい、よ!」
ぱちゅんっ、ばちゅんっ、膨れ上がった精嚢がその重みを主張するように彼女の皮膚を打つ。袋に溜まった白濁は出口を求めてオベロンの屹立に筋を立てた。
「はぁっ、はぁっ、……うっ」
「ああっ、もっ、もう、ああっ、イくっ、イっちゃ、うっ、あっ、あ゛っ、ああぁぁぁっ!」
眉を寄せて口から涎を零し、あられも無い言葉を放つ少女。ふるふると揺れる乳房の先には真っ赤に膨れた赤い蕾。しなった背中と反対に突き出すような腹。柔らかい腹部はオベロンが突き上げる度に、震え波打っている。
(美しく、ない。無様と言ってもいい。けれど、)
常時戦場、前を向いて凜と立つ彼女。奈落の底に落とそうとして落とせなかったきら星。――その光を汚す背徳感は、何事にも代えがたい。
「ォ、ベロン、オベロン! オベロンっ!」
身も世もない声で、立香がオベロンの名前を呼ぶ。陽気な妖精王ではなく。滅びを齎す終末装置でもなく。嘘つきで、陰気で、怠惰で、どうしようもなく光に焦がれている男の名前を。
「もっと、――もっと、呼べよっ」
「んっ、んっ、オベロンっ、オベロンすきっ、あっ、あ、あっ、オベロ、ンっ!」
「立香っ、立香っ、」
『好き』も『愛してる』も言えないから。代わりに彼女の名前を呼んだ。背中の翅が焼け落ちるような熱が全身を駆け巡り、――そして、彼女の最奥で弾けた。

(――柔らかい)
オベロンはふにふにとしたその白い丘陵に頬ずりし、甘い匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。はふ、と彼にしては珍しく満足げなため息も零れ落ちた。
「おっぱい、気持ちいい?」
好き勝手に跳ねた黒髪を優しく撫でられる。労るように指先が地肌を滑っていくと、得も言われぬぞわぞわとした感覚が発生する。気持ち悪い/気持ちいい、そのちょうど中間。目を閉じたまま、オベロンは「別に」と素っ気ない返事をする。
つれない態度に、立香は自身の胸の間にある精霊王の頭を呆れた顔で見下ろした。やれやれとため息をついて。一層深く彼の顔を胸元に抱き込み、圧をかけた。
「うげぇ、止めろ」
「とか言いつつ、しっかり胸揉んでんじゃん」
押しつけられたのだから、不可抗力。すべすべで、もちもちで、しっとりしているこの枕は、まぁ、悪くないとオベロンは思っている。
「よしよし」
「……子供扱いするな」
「自分の子供でもないのに、こんなことしない」
「……」
本当か?と疑ってしまうのは、日頃、彼女が幼年サーヴァント達に甘々な対応をしているせい。中には、『お母さん』と呼ぶアサシンまでいる始末。胸のひとつやふたつ、十分ありえる。オベロンの疑心を感じ取ったのか、立香が困ったように笑い、オベロンの額に口付けた。
「嘘じゃ無いよ」
そう言われてしまえば、オベロンはぐうの音も出ない。何せこちらは当代きっての大嘘つきだ。仕方無く、疑念を振り払って彼女の心音に集中することにした。しかし、「……虫の赤ちゃんって、おっぱい飲むのかな」という核爆弾並みの呟きに、カッと閉じていた眼を見開いた。
(何を言い出すんだ、このアマ!)
「飲むわけ無いだろ。虫なんだから」
「そっかぁ。……じゃぁ、オベロンが飲む?」

ジーザス。
地の底におわします祭神よ。
このバカ女の脳みそを救い給え。

「……毒味はごめんだよ」

おしまい。