雌のカナリアは歌わない。通常、美しく囀るのは雄の方だと言われている。寒い季節になると、カナリアの雄は温もりを求めて一層愛の歌を奏でるのだ。笛の音のような高く美しい声で。
「あっ、あっ、あっ」
ばさりとオレンジの羽が広がり、小刻みに震えている。その付け根をオベロンが長い舌で慰撫するように舐め上げると、「あァっ!」と赤いカナリアの唇から苦しげな声が零れ落ちた。この世で最も美しいと感じる声に満足しながら、オベロンは頭を引き上げた。白い背中に乱れた緋色の髪が流れ落ちる様は、一層互いの色を際立たせている。そして、その小さな背に生えた緋羽を見下ろす。人の手足に、天使のような羽を持つ少女。先日、イタリアの商人から買い上げたこの愛鳥を、オベロンはいたく気に入っている。夕暮れに染まった髪と羽に透明度の高い琥珀の瞳。数多の商品の中でも一際目立っていた彼女には幾人もの好事家が買い手を上げたが、この國きっての大貴族であるオベロンが有無を言わせず商人から買い上げた。人嫌いで有名なオベロンは社交界にも滅多に姿を現さない変わり者なれど、巨万の富と王家との深い繋がりを持つ公爵家の当主。有り余る財で、特注の鳥籠を用意した。金銀のフレームに真珠と翡翠を遇った花の意匠。それを初めて見た時の彼女の顔が忘れられない。あの時、オベロンは生まれて初めて声を上げて笑ったのだ。
「ひっ、ま、って、おく、いやぁ!」
「奥、気持ちいい?」
ゴツゴツッと彼女の最奥を肉棒で穿つように腰を押しつける。彼女の膣肉はぎゅうぎゅうとオベロンのモノを締め上げて必死に追い出そうとしている。その抵抗をせせら笑いながら、そおれっと彼は一際強く奥を小突いた。ガツンと奥を殴られた少女は、ひぃいいと涙声で喘いだ。奥を突き上げたまま、オベロンは優しく立香の背に覆い被り、その白く形の良い耳を彼女の口元に近づける。
「もっと、聞かせて。俺の可愛い立香」
うっとりと囁く彼の声を聞きながら、少女――立香は唇を噛みしめた。聞かせてやるものかと歯を唇を食いしばって視線を目の前の白いシーツに落とすが。
「あ」
食いしばった力は呆気なく崩される。ぐりぐりと最奥の小さな穴に怒張が侵入しようとしていた。
「やだやだっ、奥いやっ、……入らないでぇ!」
だめと言われるとやりたくなるのが人間の性。いい加減学べばいいものをとオベロンは呆れながら、その先端を小さな穴に差し込んだ。体の下に閉じ込めた白い背中がびくりと震え、バサバサと震えていた羽がピンッと糸に吊るされたように伸びきる。
「あ゛、ぁ、」
詰まった声はとても美しいとは言えない濁声。
(ああっ、なんて――汚い)
精嚢に溜まった白い液体がぎゅうと絞り上げられて、肉の管を凄まじい勢いで駆け上った。白濁は入り口から壊れた蛇口のように吹き出し、少女の子宮を満たしていく。びゅるっびゅるっ――、冗談のように長い射精の後、ぴゅっと最後の一滴が出たところでオベロンはゆっくりと彼女の背中に倒れ込み、震える体をベットの上に押しつけた。
「はぁーっ、はぁーっ、」
「げホッ、あ、ぐっ、ッ、」
引き付けのような息の合間にすすり泣く声が聞こえてくる。じんわりと枕とシーツが湿っていく感触に、オベロンはよしよしと立香に頬ずりし、慰めるように指を絡ませる。ちくりとした痛みが右手に走る。繋がれた手を見れば、立香の小さな爪がオベロンの手の甲に食い込んでいた。涙と悔しさと恐ろしさがない交ぜになった金色の瞳がオベロンの洞を睨む。
「止めてって言った」
「ごめんごめん」
「酷い、全然悪いと思ってない!」
「君が可愛いのがいけないんだよ」
「嘘!……私を苦しめて楽しい?」
その一言にオベロンの唇の端が吊り上がる。どろりと溶けた瞳には黒い炎が渦巻いた。底無しの、洞のような瞳に立香は堪えきれず嗚咽した。
(どうして、こんな目に)
何も無い村で穏やかに暮らしていた立香達は、突如現れたならず者に首輪をかけられて島から引きずり出された。大勢の仲間が酷い目に合い、立香も舌なめずりをする衆目の視線に震えあがった。怯えきった彼女を買ったのは、上等な白い服に身を包んだ年若い男。立香達を襲った狼藉者とは似ても似つかぬ優しい声と手つきに、ほんの少しだけ安堵した。美味しい食事。楽しい会話。オベロンと過ごす毎日は、日に日に立香の心を温めていく。この人なら自分を解放してくれるのではないかと期待した、――愚かな少女の幻想は、悍ましいほどに美しい鳥籠を前にして粉々に崩れ去った。
『君の為に造ったんだ』
固い金属で出来たその鉄棒は立香の腕ほどの太さ、扉の格子に吊り下げられた大きな南京錠がじゃらりと重たい音を立てる。鳥籠の中には一際大きな寝台と水場。立香が見たこともない豪華で大きなこの家の中でも、常軌を逸した絢爛な装飾品。この美しい男は、立香を逃がす気などこれっぽちもないのだと理解した。
恭しく取られた左手が恐ろしくて振り払おうとしたのに、華奢な見た目にそぐわぬ剛力で引きずられるように中に連れ込まれた。泣いて叫んで、懇願してもオベロンは立香を解放しなかった。服を全て剥ぎ取られて、寝台に押しつけられて――。少女は花を散らせた。
ずるりと逸物を抜くと、赤く腫れた秘所から白濁がトロトロと雨水のように零れた。
「おっと、勿体ない」
オベロンは寝台横の机に置いた丸い突起が付いたドアノブのような金具を取り、立香の秘穴に差し込む。勢い良く立香の中に差し込まれたソレはぐちゅんっと泥濘んだ音を響かせた。
「ひッ、やめ、て! ぬいてぇ!」
「こらこら、折角注いだのに零れるだろ?」
「あっ、ぐっ」
一層奥に突き込まれた金具に立香は悲鳴を飲み込み、喉を仰け反らせて衝撃を堪える。オベロンは軽く引いて抜けないことを確認した後、立香の両足を優しく抱き上げた。抱え上げられた白い両足の付け根に、拳程の小さな琥珀が輝いている。
「……うん、やっぱり君にはアンバーがよく似合うね」
羞恥と恐怖。立香の瞳から涙が溢れた。
「もう止めて」
両手で顔を覆い懇願する立香を後ろから丁寧にオベロンは抱き込み、愛おしげに彼女の腹を撫でた。
「次の卵はいつ出来るかな。もうそろそろだと思うんだけど」
整合性の無い会話に立香の体から力が抜ける。涙で煙る視線は寝台の奥、柔らかな布地が敷き詰められた宝石箱を見つめる。箱の中には、大小様々な斑模様の卵。この数ヶ月で立香が孕んで産んだ卵だ。未成熟な少女だった立香は、毎日のように種を腹に蒔かれ、異種族の男の卵を孕んだ。ぽこりと膨らんだ自分の白い腹。自分が何をされてこれから何をするのかを理解した立香は、狂乱し何度も鳥籠の中を飛び回り、壁に衝突しようとした。自殺紛いな行為をする立香を見るに見かねてオベロンは――、立香の風切り羽を切った。
(あの時もこんな風に抱きしめられたっけ)
二度と飛ぶことが出来ない絶望。そして、一生飼われて生きていくのだという生への諦め。力なく寝台に倒れ伏す立香を優しく後ろから抱きしめて、オベロンは何度も立香の腹を愛おしげに撫でた。毎日のように「大丈夫だよ」と耳元で甘く囁き、とうとう訪れた産卵の時も片時も立香の側を離れず「愛している」と囁き続けた。
(アイシテルって、なに?)
少女だった。森を野を自由に飛び、家族と友人と穏やかに慎ましやかに暮らす、ただの幼子。年離れた姉に子供が生まれると分かった時は、森の一番高い木を遙か見下ろすほど飛び上がって喜んだ、――少女だった。
そんな少女が初めて産んだ卵は、小さな小さな藍色の卵だった。掌にやっと乗る程度。姉が産んだ卵より遙かに小さなソレ。体液に濡れてぬらりと光ったソレを見て、オベロンは「ラピスラズリのようだね」と嬉しそうに立香のこめかみに唇を寄せた。優しい唇の温かさに、ぼろぼろと立香の瞳から涙がこぼれ落ちる。卵は、――死んでいた。それから幾度も立香は卵を産んだが、全て冷たい卵だった。立香は卵を産む度にごめんなさいと泣き崩れたが、オベロンはその反対に大いに喜び言祝いだ。「これはガーネット、こっちはサファイア、これはオニキスかな」まるで、子供の名前でも付けているかのように卵に宝石の名を与える彼。あの日、競りの舞台で恐ろしいと思った衆人。その誰よりも恐ろしい人間がオベロンだったのだと振り返りながら、立香は眠りの淵に落ちていく。
涙に濡れた睫を拭いながら、オベロンは呟く。
「可哀想に」
意識を失った立香の体を抱き起こし、その肢体を眺め下ろす。未成熟だった立香の体は、幾度もの妊娠を経て艶めかしい女性の体つきに変化しつつある。最初より幾分膨らんだ両胸の頂には、真っ赤なバラの蕾。肋の浮いた腹はふっくらと初雪のように柔らかに。すらりと子鹿のようだった足は、肉付きの良い桃の感触になった。オベロンは暫く立香の体を眺めて、――おもむろに手を上げ、胸の先、赤くなった乳首を摘まむ。
「ぁっ、んっ……」
つんと摘まみ上げられた先穂をくりくりと弄られて、無意識のまま喘ぐ立香。その声と潜められた眉にオベロンの口元は醜悪に歪み、下半身の屹立が鎌首をもたげた。
「ねえ、知ってるかい? 鳥が一生に産める卵の数を」
大体三千ぐらいらしいよと独り言ちるオベロンの細い指先が、立香の膨らみかけた腹に蛇のように忍び寄る。ねっとりと舌なめずりをするように指先を腹を這わせた後、柔い肉を掴み上げた。「立香」と決して目覚めないであろう少女の名を呼び。
「もう産めなくなるまで、卵を産んだら」
次は何が生まれると思う?
濡れそぼる琥珀を引き抜いた。