温かな陽気煌めくサンルームにて、4人の人間――失礼、1人の人間と3人の英霊でお茶会が催されている。ジャンヌとそのオルタ、孔明が各々好きな紅茶を飲みつつ、居心地悪そうにするマスターを取り囲んでいた。
「それで?あんたはまんまと流された訳ね」
うぐ、そういうわけじゃあと立香からうめき声が上がるが、やれやれとため息を零しながら、オルタは切り捨てた。
「何よ。顔のいい男に負けたんでしょ」
べしゃりと立香がテーブルの上に崩れ落ちた。そう、そうなのだが! だが!
ぐぐぐと彼女の握りしめた右手が言葉なく遺憾の意を示している。それすらも鼻で笑いながら、オルタはびしりとフォークを突き付けた。
(お行儀が悪いです)(黙ってなさい)
「いいこと! 顔の良い男なんてね、碌なもんじゃないのよ。適当に甘いセリフを言って、キスの一つでもしておけば許されるなんて思っている連中よ。大体……、あんた、そんなことしている暇があるの! 異星の神は!? 人理はどうしたの! この私と契約しておいて無様を曝す真似は許しませんからね!!」
「自分だって経験無いくせに…」
朴念仁の孔明をぎろりとオルタがねめつける。彼は肩を竦めて降参の合図を送る。ふんと一笑に付して、再度、立香に狙いを定める。
「あんたもあんたなら、マシュもマシュよ! 何なのよ! 二人そろって情けない! 戦略底上げか何か知りませんけどね。ちょっと私が前線を退ければ、まあ、無様無様。マシュのスペック低下が何だっていうんです? 異星の神? 上等じゃない。この私の炎に焼けないものなんてありません。須らく燃やし尽くしてあげましょう」
こっそりと腕に埋めた顔を上げて、正面のオルタを覗き見た。きつい口調に反して、その瞳には心配ですという文字が見える。ほんとに情けないなぁ、私、と立香は苦く笑う。
そんな二人をまあまあとジャンヌが取りなす。彼女は困ったようにマスターを見つめつつも、祝いの言葉を贈る。
「私は貴方とかの妖精王の吉事を喜びます。オルタもこんな言い方ですが、貴方を心配しているだけです。マスター。こんな状況になってしまって、なかなか周りに頼るというのは難しいでしょう。 かつての私がそうであったように。いつだって、運命は残酷です。それでも私たちは前に進まねばならない。貴方の旅路は険しく遠い。その道行に寄り添う方がいること。それはとても心強い。
だから、良かったと、私はそう思います」
「ジャンヌ……」
こほんと右隣、孔明だ。彼は二人とはまた違う表情でマスターを見やる。すっと立香は体を持ち上げて、背筋を伸ばした。彼は魔術師として素養の無い立香の指導をしてくれていた先生の一人であり、
このカルデアにおいては最初の星5サーヴァント。オルタ以上に無様を曝せない相手だった。
「不安要素が無いと言えば噓になる。なんてたってあいつは奈落の虫、星の終端装置だ。 汎人類史の滅びを望みこそすれ、その逆は無い。けれど、ちゃんと手綱を握れるならばこれ以上強力な助っ人はない。それに――これは勘だけど。マスター、お前がいる限りあいつが裏切ることはない、…と思う。節度を守って、目的を見失わないように。それが守れるなら、僕らがこれ以上口だすのは野暮だろ」
「……はい、先生。ジャンヌも、オルタも。ありがとう。どうかこれからもよろしくお願いします」
滲む視界を隠して、立香は深く頭を下げた。
三人の言う通りだ。道行は暗く、何も解決していない。それでも、私は前に進む。大丈夫、私は一人じゃない。マシュ、ダヴィンチちゃん、所長、ホームズ、ジャンヌ、オルタ、孔明、みんな。
それから――。
「あーはっはっはっ!」
ばんばんとアルトリアが美少女らしかぬ形相で、畳を叩きながら爆笑している。ひーっひーっと引きつり笑いすら起こしている。こら、みっともねえぞ。と村正に窘められて漸く居住まいを正し――、ぶはっと空気砲を口から吐きだした。
「だめです! 堪えらません! 無理ですーーー!」
「そのまま笑い死ね」
と、アルトリアの左側で最悪の期限の悪さで妖精王がむすくれている。その顔には赤々と手の平の跡がある。そんな二人の様子を村正はやれやれと呆れた。(何もぶつことはないだろう、2回目だぞ。)とオベロンは憤っている。あの後、爛漫に咲く花々の中で、うっかり、そう、うっかり盛り上がり過ぎて、最後まで致そうとして、立香にぶたれた。TPOー!!! と叫ばれて、シミュレーションルームに一人置き去りにされるなんて。妖精王ショック。
「がっつくんじゃねえよ」
「そっちが好きにしろって言ったんだけど?」
そういう意味じゃないと村正は頭痛のする頭を押さえながら、天を仰ぐ。だから、この二人は極端すぎるのだ。そうこうしているうちに、オベロンが羞恥に耐えかねて、アルトリアを蹴り始めた。蹴られて尚、彼女はオベロンを指さしながら爆笑している。
(まあ、いいか)
我関せず。胡坐の上で頬杖と苦笑ひとつ。
鉄の匂いする囲炉裏には賑やかな喧騒と茶の香りが満ちた。