悲恋

奈落の底に降る雨

外側はカリッと、中は白くふわふわ。バターをひと掬いして、表面に押し付ければ、とろりと溶けた。辺りにコクのある薫りが立ち込める。つうっと指先に温かい液体を感じて、慌てて立香はたっぷりバターを付けたパンに噛り付いた。むしゃり。程よく弾力のあるそ…

I’m always with you ~後書き~

最後まで読んで頂き、有り難うございました!以下、この作品の背景と設定になります。お読みになる前に、注意書きですが。作品がアンハッピーなので、設定も虚無虚無プリンです。それでも知りたーいという方のみ、ご確認頂ければと思います。 ↓↓…

I’m always with you ~Day 7~

駆けて、駆けて、駆け続けて。青年は坂道を走る。ちゅんちゅん、という鳥の鳴き声に朝が来たことを知る。「……」寝起きは最悪で、昨夜はとかく眠れず。気が付けば朝という流れ。「……朝食」惰眠を貪りたいところだが、朝の支度が彼を待っている。もぞりと芋…

I’m always with you ~Day 6~

ブルーの生地の上に細かな小花の刺繍がちらされたオーガンジー。足下はウェッジソールの白いサンダル。緋色の髪はハーフアップに纏められて、耳元には花のイヤリング。薄く化粧が施された少女は落ち着かない様子で籠のハンドバックを右に左にと揺らしている。…

I’m always with you ~Day 5~

その白く大きな建物は、『株式会社フラッシュフォー 脳神経科学研究所』というご大層な黄金のプレートを掲げていた。「……」入場ゲートには屈強なガードマンとゲートが設けられており、いかにも一般人お断りの雰囲気でさしもの青年もごくりと生唾を呑み込ん…

I’m always with you ~Day 4~

そこは白い建物がひとつと後は一面のグリーン。青々と生えた芝生が草の香りを放っている。「だから、何も無いって言ったじゃ無いか」呆れたように青年は言葉を吐き捨てる。花があると言っても、花壇に少々申し訳程度にピンクの花、ペチュニアがある程度。後は…

I’m always with you ~Day 3~

差し出された紙を見て、彼女は酷く驚いた様子だった。青年は長い沈黙に居たたまれず、「気に入らないなら……」等と可愛げの無いことを言ってしまう。少女の睫が忙しくなく上下した後、首が高速で横に振られる。断られなかったことに思わず安堵の息。「じゃあ…

I’m always with you ~Day 2~

「昨日の自転車が大変不評だったので、今日はこれです!」ドン!という効果音をつけたいどや顔で、釣り竿を掲げた少女。「不評だったのは、自転車じゃなくてきみの運転だよ」折り曲げられた青年の中指に、少女の足が一歩下がる。ジリジリとした間合いの詰め合…

I’m always with you ~Day 1~

「はーッ、ミスった」(何であんな約束してしまったんだか。我ながら何て不用心……)と、青年の朝は昨日のやりとりを後悔するところから始まった。トントントン――。気怠げに階段を下りて、ガコンと冷蔵庫のドアを開ける。(……フレンチトーストかな)扉を…

I’m always with you ~Day 0~

 ジーワジワジワ。 緑の木々の合間から殺人的な日光が降り注いでいる。全方位から木霊する蝉たちの合唱が脳を揺さぶり、額と言わず全身から汗が噴き出す。皮膚を滑り落ちたそれは、黒々としたアスファルトから立ち昇る陽炎に溶けて消えた。「あっい……」 …