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【ゆるっと牧場生活】Cada mochuelo a su olivo(夏の月)

 ここ最近、日差しが強くなってきた。太陽がギラリと凶悪な光を発するようになり、その光に晒された人々の肌がクリームからチョコレートに、人によってはブラックコーヒーのような色に染まるようになった。 さんさんと太陽の光が注ぐ夏の一日。世の女性が紫…

【ゆるっと牧場生活】Cada mochuelo a su olivo(春の月)

背の高い木々の間、平原とも森とも言えぬ砂利道を一台のバイクが走っていく。その可愛らしい車体とは裏腹に、ブロロロロロ!という重低音。じゃりじゃりと砂を踏みしめるタイヤからは砂埃が上がっている。太陽が空高く昇り、畦道にはバイクの機体と2つの人影…

ハロー、Samhain(サウィン)!

ドラキュラ伯爵がワインを片手に持ち、ドラクルなアイドルが壇上に上がるのを引き留めている。その向こうでは、黄金色に輝く棺からどうみても死にそうにないミイラ男が高笑いを上げている。メジェドの布を被ったウサギ耳の幽霊がカボチャのランタンを持って右…

硝子の下で

彼は、誰かが捨てた物をひとつひとつ拾い上げて、懐に仕舞い込む。そんな人だった。自分の心には澱みも染みも蟠りも、ひとつも無いのだと言った。数え切れないほどの不幸と、嘆きと、怒りが生まれ。そして死んでいくのを余さず見つめ続けた彼は。ブルーの瞳は…

飛んで火にいる夏の虫

わいわいがやがや。――食堂から廊下まで、カルデア中が騒がしい。アゲハ蝶の如き翅を閃かせて、オベロンは舌打ちする内心をひた隠し、速やかに人々の群れを通り過ぎていく。うっかり翅があたりそうで、第二臨の姿になれば良かったと後悔した。廊下の反対側か…

星に願いを

「織姫と彦星って言ってね、地元じゃ有名なお話だったんだ」「……ふーん。元は裁縫の上達を願う行事だったのが、今や欲望に塗れた願い事のごみ処理場ってわけか。ハハハ、気の毒~ぅ」ちっとも気の毒そうに見えないが、オベロンは願掛け対象の二人を慰労した…

白昼夢、あるいはありもしない未来の一欠片

リーリーリー。ああ――、虫の音が聞こえる。自分程、虫に所縁のある者もいないだろう。けれど、この虫の音は聞き馴染みが無い。普段、自分の周りをちょろちょろと徘徊する者たちとは異なる声。はて、自分は一体どこにいるのだろう?オベロンが自問した時、も…

後奏曲★卵ころころ?

オベロンには人に言えない願いがあった。――え? 妖精国? そんなものは、もうとっくの昔だ。昔々あるところに、なんて前置きがつくぐらいの気持ちだ。(実際はそんなに前じゃないけどね)所謂、『あの時は若かったな~』ってやつだ。そう。これは今の・・…

『X9999999999』

たった一度だけ、あのカルデアで空を見た。青く、碧く、蒼く、美しい空――。空気は澄んでいて、雲は無かった。大地は一面の白銀で、その果ては無かった。沢山のものを失って、一等大事な心恋も失った。それでも……。隣に立つ人の手は温かかった。あの時の気…

『01211621466』

【始めに】このお話ではデイビットの能力を捏造しています。彼がミクトランパで召喚したクトゥルフ関連のサーヴァントと彼の生い立ちから着想し、かなり冒涜的要素と探索者要素を突っ込んでおります。そういったものが苦手な方は避けて頂いた方がよろしいかと…

『00894510123』

ピッ、ピッ、ピッ、と規則正しい電子音が少し手狭な部屋の静寂に鼓動を刻んでいる。呼吸器を着けた青年は静かな笑みを零して囁いた。「全く面目ない」それを聞いたロマニはカルテから顔を上げて、やれやれと首に手を当てる。「それを言われるとボクたちも立つ…