文章

協奏曲★三章:託すもの・託されるもの

「頭おかしいんじゃないの?」開口一番、とんでもない剛速球が来た。常ならば、茶化して有耶無耶にしてしまおうと考えたであろうが、今日は、今回のはダメだ。冷えた目の奥に、青い炎が立ち上っている。(ガチ切れ……)立香は首を竦めながら、恐る恐る視線で…

協奏曲★一章:妖精王の口づけ

「さあ、幕をぶち上げろ! クライマックスだ!」汎人類史の生存を賭けた戦いは、暗い日の射さぬ奈落の最中より始まり、蒼い空に帰った。取るに足りぬ虫一匹を取り残したまま。「いやー、ないわぁ。過労で殺す気か?」ノウムカルデア、汎人類史最後の砦。よた…

協奏曲★幕間Ⅰ:とある探偵の見解

ふむ。なるほど。つまり、自己の在り方に異常を感じる――と。左様、ならばそれが正常真実かと。なんですって? 説明になっていない?やれやれ、中々にどうして、聞き上手な助手のいない状態での説明は骨が折れますな。ミス・キリエライトは・・・ははぁ、残…

協奏曲★二章:小さな恋の終わりと始まり

憧れというには温かすぎた、恋というには熱が足りなかった。愛というには遠すぎた、恋というには畏怖があった。時折、感情がマグマのように吹き溢れる日がある。それは大きな特異点を解決した直後よりも、何でもない日常の後にこそやってくる。当たり前だが、…

水底の星

折角の水着が勿体ないと言う立香に手を引かれ、オベロンがホテルのプールに連れ出されたのは人気の途絶えた夜半のこと。「だから、泳げないって言ってるだろうが!」「別に泳がなくもいいじゃない。ほら」スポン――、気の抜ける音と共に立香の素足が夜の風に…

三題噺(ライトレ)「鳥籠、偽物、愛の言葉」

雌のカナリアは歌わない。通常、美しく囀るのは雄の方だと言われている。寒い季節になると、カナリアの雄は温もりを求めて一層愛の歌を奏でるのだ。笛の音のような高く美しい声で。「あっ、あっ、あっ」ばさりとオレンジの羽が広がり、小刻みに震えている。そ…

透明にさせて

「はぁっ」ちゅっ、くちゅっ、と異音を響かせながら、立香はオベロンと口づけを交わしている。白む頭の片隅で立香は、止めなきゃと彼の肩を押す。「んっ、もう?」舌が痺れて使い物になれないので、こくこくと立香は必死に首を縦に振る。そろそろ朝のブリーフ…

奈落の底に降る雨

外側はカリッと、中は白くふわふわ。バターをひと掬いして、表面に押し付ければ、とろりと溶けた。辺りにコクのある薫りが立ち込める。つうっと指先に温かい液体を感じて、慌てて立香はたっぷりバターを付けたパンに噛り付いた。むしゃり。程よく弾力のあるそ…

オベロンはよく空を見上げる。――明るい蒼い空ではなく、漆黒の夜空とそこに浮かぶ星を眺めている。ストームボーダーでは空は見えない。だから、レイシフトした先、野営の時などは必ずと言って良いほど、空を静かに見上げている姿を見かけるのだ。今日も魔獣…

実装一周年記念(2022年夏イベント)

「さあさあ、マスターは早く寝な。明日も大変だからな」その鍛え抜かれた肉体を惜しげも無くさらしながら、燕青は疲労の色浮かぶ立香の背を押して、船底の宿泊ルームへと誘う。なんだかこのまま寝るには惜しい気がして、立香が押された背中越しに後ろを振りか…

They’re both to blame(どっちもどっちだね)

さわさわと木葉が擦れる音で藤丸立香の意識は目覚める。前にも後ろにも木、木、木。彼女は、ひとり森の中に立っていた。夕暮れの色。黄色。橙。茶色。優しい、――秋の色。彼女の視界いっぱいに広がるその色彩に、ここが何処であるのかを察する。戦いの果て、…

夏のお題三連

わいわいがやがや。――食堂から廊下まで、カルデア中が騒がしい。アゲハ蝶の如き翅を閃かせて、オベロンは舌打ちする内心をひた隠し、速やかに人々の群れを通り過ぎていく。うっかり翅があたりそうで、第二臨の姿になれば良かったと後悔した。廊下の反対側か…